苦しくても楽しくても

少し前の科学記事に、
おもしろいものがあった。

バッタは周りの食糧を食べ尽くすと、
次第に集まり、巨大な群れになる。
群れの個体は、孤立している個体に比べ、
脳の容積が一回り大きくなることがわかったという。

その変化にはセロトニンが関係している、
とのことだった。それでおやっと思ったのだ。

人間にとってセロトニンは、
ストレスに強くなり、前向きで落ち着きのある、
つまり、心身を理想的な安定状態に導く脳内物質だ。

同じ化学物質が、バッタにとっては、
すさまじい餓えと共食いに苦しみながらも、
生き抜くための興奮状態を作り出す。

体の色も、足の太さも、脳の大きさも変わり、
ふだんの緑色のバッタから比べると、
ジキルとハイドと言われるくらい、
黒くいかつく攻撃的なキャラに変身する。

バッタと人間、
それぞれの生き物の体内で、
セロトニンの働く文脈は、
まったく違うように見える。

でもよくよく考えてみると、
その働きはきわめてシンプルで、
ずっと同じなのかもしれない。

環境に適応しようとする自らの変化を、
非常事態に追いつめられて起こすか。
それとも、いつもゲームとして楽しむか。

セロトニンでハッピーになれる人間は、
明らかに後者の生き物と言えるだろう。

苦楽一如。
禅の言葉を思い出すとは思わなかった。
私たちを含め、生き物は、
どこまでこの世のチャレンジを、
乗り越えていくのだろう。

波は毎日変わる

うーん、やる気のないメニューだね。

白いクロスのかかる、
大きなテーブルの向こうで、
ガストロノーム氏はそう評した。

レストランの空気が凍りつく。
その氷をシャリシャリとかきわけ、
連休どうしてらしたのと話しかける。

しかし氏の機嫌はもう直らない。
あれはないの? これはないの?
じゃあこんなの作れない? 

むしろハードルは高くなり、
マネージャーは緊張していく。
フロアとキッチンを何度行き来しても、
両者の折り合いはつかず。

わかりました。
このスープが終わったら出ましょう。

初夏の夜。
エントランスの外はツツジが満開。
氏はすたすたと去り、
マネージャーと私は直角におじぎをする。

少し前までいつも予約でいっぱいだったのに、
あっという間に客がひいたね。
たぶん、もうすぐなくなるだろう。

その予言はきっと正しいのだろう。
素材も調理もサービスも死に体だった。
でも大通りをめざして歩くうち、
今夜はもういいやと思う。

ぴかぴかのグラスやカトラリー。
繊細な料理や楽しい会話。
そういう、特別な時間を過ごすために、
レストランを訪れたけれども、
本当は、ほら、その自販機のドリンク1本で、
生きていくには足りる。

はやりすたりの波。
そんなのはたいしたことじゃない。
今とてもやっかいなものが、
毎日動いて形を変えている。

メキシコ湾の原油。
欧州の火山灰。

海の生き物も、空の鳥も、植物も。
じわじわインパクトを受けるだろう。
今誰もその全容を知らないけれど。

新しいお店に入るか聞かれ、
もうおいとましますと答える。
礼を言い、詫びを言う。
スープとワインの。

家に帰り、ネットに入る。
油と灰の分布を見て、
そのあとはふと仮想の火星に飛ぶ。

地球より少しだけ小さく、
太陽に少しだけ遠い。

今は波もなく、死んだように静かな、
赤い兄弟星の上空を飛びながら、
あなたはなぜ、そしていつ、
どんなふうに壊れたの? と、問いかける。

空きっ腹で。

豆シャンプー

薄曇りの空。
ごつごつした石畳を歩く。

旅の途中にある。

時折、自分の中を強く引っかき起こすような、
そういうひと、もの、ことにぶつかることを、
人生の大きな祝福のひとつと思っている。

が、実際、その経験のただ中にあるときは、
あまりなにも考えていないのかもしれない。

あとで思い出して修飾する。
喜んだり、悲しんだりする。
今はただ、五感の動物だなあと思う。

昨夜は髪を洗った。
シカカイとカシアアウリクラタ、
それに麦飯石のミックスパウダーを、
少々のミネラルウォーターでとろりと溶く。

ペーストの入った器をバスルームに持ち込み、
乾燥してごわごわになっている髪をぬらすと、
自然にふうっとため息が出た。

石けんを使うと、とても泡立ちの悪い硬い水なのに、
とにかく髪の毛を、ミネラルの影響をまったく受けないで、
洗えるってやっぱりいい。

髪に薬草のペーストを行き渡らせ、
マッサージする。歯磨き用のコップに、
少しクエン酸の粉を入れておいたので、
お湯で溶いて髪にかける。

ここからは、しみるので目をつむっている。
くらやみの中で100まで数え、
コックを思いきりひねって、
頭からお湯を浴びる。

友愛。恐怖。思慮。
虐殺。哀悼。支配。

人間はなんでもできる。できてしまう。
立場が変わればどんなことでも正義になる。

水流に助けてもらって髪を指で梳いていくと、
それがさらさらによみがえっているのがわかる。

今日、ぺたりと広がる緑の墓野より、
ひばりが一羽、美しくさえずりながら、
高く、高く舞い上がっていった。

その映像もまたよみがえる。
まぶたの裏に、さらさらと。

1月末勉強会にて

東鳴子の地大豆2種が、
立派な一升枡に入って、
豆シボリのてぬぐい付きで、
送られてきました。

みなさんにお分けして、
お世話してくださった大沼さんに、
お送りする記念ショット。
omamesan
大沼さんたちは、
今年も地大豆湯治を続けるそうですが、
同じように私たちがお申し込みするには、
なかなかパッと参加できないこともあって、
ちょっと厳しいかもしれませんね、
と話し合っています。

重曹泉の里とのよいつながり方を、
またなにか考えていきましょう。(^^)

私をあたためてくれるもの

とても寒い日が続いて、
ウールのコートやダウンジャケットが大活躍。
でも薄くて軽いベージュのダウンは、
雨に降られて水のしみができてしまった。

色がうすいジャケットだから、
雨の日は着ないように気をつけていたけれど、
帰り道に降られてしまってアウト。

クリーニング屋さんは、そのしみを見て、
水ならば大丈夫でしょうけれど、といい、でも最近ですね、と、
よく見かけるダウンのトラブルを教えてくれた。

それは服の表からではなく、
裏というか、内側から来るという。

たくさん出回るようになった安いダウン。
中には仕上げを相当に簡略化したものがあり、
羽や羽毛は鳥の体表から引き抜くものだから、
私たちの髪の毛やうぶ毛と同じように、
根元に毛根や血液などが残っている。
それを何度も洗って乾かす手間を、
かなりのところ省いてしまうのだという。

中には水鳥ではなく、陸鳥から羽を抜いて、
陸の鳥というのは水鳥と違って、
抜くと筋肉組織まで付いてくるから、
もちろん、きちんと洗浄できていればいいけれど、
コストのために、それすらはしょる例もあるそうだ。

そういったものが、
中から浮き出してしみになる。
しみまでいかなくても、
ずっとにおいがとれない。
そんな例が急増しているそうだ。

手軽に服を次々買って楽しむのもいいけれど、
一歩立ち止まって考えるとね、と、
クリーニング屋さんは、ため息をついた。

本当にそう。
やっぱり大切にしよう。
私をあたためてくれるそのジャケットは、
どこかの鳥からいただいたものだ。
たくさんの人手を介してはいるけれど、
もとは、いきもの。

ウールのコートは、
羊からいただいたもの。
絹は蚕のもの、
木綿はわたの木のものだった。

着たら必ず手入れをし、
少しずつ形を直したり、
ほころびを繕ったりして、
長く大切に着ること…。

そのことを、
感謝とともにあらためて思い出した、
今朝はまるで、
羽毛にくるまれているかように、
あたたかい、朝。

クリームクレンザーがうまく作れないという方に

明けましておめでとうございます。
本年もみなさまどうぞ宜しくお願いいたします(^^)

さて年末の大掃除が終わっても、
テレビ局さんにはまだまだお問い合せが来ているそうです。

その中に、言われた通りの材料を探して買い、
量と作り方もきちんと守って作ってみたけれど、
うまくクリームにならないというお声が、
少数ながらあったとお聞きしました。

今日はそんなときのアドバイスです。

お買い求めの重曹は、粒の大きさや水分など、
製品によって微妙に異なっていると思いますので、
レシピの量は、おおまかな目安とお考えください。

液体石けんや自作した石けん水も同様です。
原料や水分の違いによってとろっとしていたり、
さらさらだったりすると思います。

できあがりのクリームが、
いちばん気持ちよく使いやすい状態になるよう、
何度か作って調整し、各材料ともわが家にぴったり、
というベストなバランスの量を、どうぞ見つけてください。

お作りいただいたクリームクレンザーが、
ふんわりなめらかなクリーム状にならないときには、
生地がどろどろ、しゃばしゃばで終わるパターンと、
もたっとしたままのパターンとの、
2通りの状態があると思います。

前者のパターンは、
石けんの水分量が多すぎるかもしれません。
少し石けんの量を減らしたり、量は同じで、
石けんの濃度を高くしたりしてみてください。

後者のパターンは、
もう少しビネガーの量を増やしてみてください。
石けんの水分量もやや多めがよいかもしれません。

クリームはペーストより少量で伸びがよく、液だれがなく、
広い場所や垂直な場所、でこぼこや穴があるところにも、
うすくムラなく塗りやすいので、
覚えておかれるとそのあとずっと便利な、
スタンダード・レシピのひとつだと思います。

どうしてもうまくクリームにならないときは、
そのまま重曹石けんペーストとして使っても、
じゅうぶんお掃除に役立ちます。

作り慣れ、かつ、使い慣れてくださると、
材料を吟味したり、ハーブやミネラルを追加したりして、
お掃除から美容、衛生、育児、介護まで、
ご自分なりに、いろんな場面で応用できます。

まずはぜひ、気楽に、
どんどんトライしてみてくださいね。

[純石けん]や[液体石けん]をお探しのみなさまに

先日来、クリームクレンザーを作りたくて、
「純石けん」なるものを探している方がとても多い、
というお話をテレビ局さんからうかがいましたので、
今日はちょっとした石けんガイドのお話です。

大きめのスーパーやドラッグストア、ホームセンターには、
必ずといっていいほど純石けん、つまり、純粋な石けんも、
置いてあります。ちょっとだけ足を伸ばしてみてくださいね。
店員さんに訊ねてみても、ネットで調べてもいいと思います。

さてまず、
純石けん(混ぜものなしの純粋な石けん)を見つけるためには、
これかな?と思う製品を手に取り、裏の成分表示を見ます。

そこに「純せっけん」「せっけん素地」あるいは、
「脂肪酸ナトリウム」「脂肪酸カリウム」とあればOKです。

アルキルエーテルなんとかかんとかナトリウム、
といった長い名前の成分は石けんの成分ではなく、
合成洗剤の成分名なので、むずかしいですし、
覚えなくていいと思います。

ただし「複合せっけん」というのがときどきあります。
これは、せっけんとは名前がついていますが、
合成洗剤と石けんを複合した(混ぜた)ものなのでNGです。

純石けんには「固形石けん」、「粉石けん」、
そして、今回クリームクレンザーの材料に登場した、
「液体石けん」があります。

これらは形状が違うだけで、どれも混ぜものなしの、
純粋な石けん(つまり純石けん)といってよいでしょう。

固形石けんと粉石けんの場合は、成分表示に、
「純せっけん」「せっけん素地100%」「脂肪酸ナトリウム100%」
などと書いてあります。

固形石けんをすり金ですりおろしたものや、
粉石けんをおさじですくって、
水に1~2割溶かすと、泡ぶくぶく、
懐かしい石けん水ができあがります。
これをクリームクレンザー作りにお使いいただいても大丈夫です。

お風呂用とか、ふきん洗い用とかの、
余った固形石けんが、よく家の中に転がっていませんか。
それでじゅうぶんクリームクレンザー作りができますから、
安心してくださいね。

で、いよいよ、もうひとつの液体石けんの場合は、
成分表示に「脂肪酸カリウム○○%、水」とか、
「カリ石けん素地○○%、水」などと書いてあります。

実は、天然の油脂(脂肪酸)を鹸化するのに、
苛性ソーダ(NaOH 水酸化ナトリウム)を使うと固体の石けんが、
苛性カリ(KOH 水酸化カリウム)を使うと、
ジェル状の石けんができます。

固体の石けんは、普通の四角い固形石けんにしたり、
細かい粉に仕上げて粉石けんにしたりします。

いっぽうジェル状の石けんのほうは、水でうすめ、
使いやすい液状の石けん(つまり液体石けん)として、
製品化されています。

ですので、液体石けんの場合は、
純粋な石けんといっても100%石けん成分ではなく、
10~30%くらいが脂肪酸カリウム(カリ石けん素地)の石けんで、
あとは水です。

クリームクレンザーの材料には、
はじめから水に溶けた石けんが便利なので、
テレビや雑誌でご紹介するときには、
材料として液体石けんがよく登場します。

これで探しやすくなるでしょうか。

「純石けん」や「液体石けん」のこと、
初めて知った方もいらっしゃると思いますが、
そのつもりで注意して見まわすと、みなさまのまわりにも、
それらを扱っているお店が、思った以上に多いことに、
きっとお気づきになることでしょう。

あともうひとつ、石けん水や液体石けんと、
台所用の中性洗剤(合成洗剤の一種)との違いが、
よくわかる実験をご紹介します。

ひとつのお皿には石けん水か液体石けん。
もうひとつのお皿には中性洗剤。
それぞれ少量ずつ入れておいて、
そこにお酢を注ぎ混ぜてみましょう。

石けん水や液体石けんは中和され、
とろんとした油に戻ります。
中性洗剤は、なにも反応しません。

ビネガー水(お酢水)でさっとすすげる純粋な石けんで、
クリームクレンザーを作っていただければ、
あとに洗剤の成分が残る心配もありませんので、
大掃除のシーズン、ぜひそのさっぱりした使いごこちを、
安心して、ご家族みなで、たくさん楽しんでください。(^^)