京都にいる。
市内の桜はまだ咲いておらず、
まだ寒さを感じる。
地下鉄で宝ヶ池に出た。
30分近くかかったが、
混雑するときはタクシーより早いという。
しんと静まった地下道を歩き、
国際会議場の前に出る。
街中よりいっそう寒さを感じる。
ホテルで人に会い、
あれこれと打合せをする。
今日で実質、3月の行事が終わる。
週明けからは新年度だ。
このホテルもリニューアルだという。
帰りのエントランスで、夕暗がりの中、
ライトアップされたしだれ桜を見つけた。
生け垣の木も池の周りの潅木も、
他の木々がまだ新芽の気配の閉ざされる中、
尋常ならざる迫力で、ひとり(ひとり?)、風に揺れている。
だから桜は異様で、
それゆえいっそう美しい。
しばし打たれて足を止めた。
桜色とは血の色ではないのか。
乙女の上気した頬の色。
赤ん坊の小さな爪の色。
あのね、とささやく少年の唇の色。
深い切り傷からそれが落ち、
水ににじんで、一瞬、痛みよりも、
きれいだなあと見とれた。
あやうい、あやうい命の色。
他の樹々にさきがけて、
命の蘇りを宣る木なればこそ、
その色つとにふさわしいと、
迫力のわけをふと思い至るのだった。