2月8日(水)人を変えるもの、人を人たらしめるもの

創作料理の試食会。

イカと大根の軽い鍋モノをいただく。
やはりこの組合せは王道だ。
いくらでも箸が進む。

途中、魚はなぜ魚くさいかという話になる。
イカやタコはくさくないのに。
皆に負けずにパクつきながら、
魚の体を構成しているタンパク質がその死と同時に分解を始め、
においの主な原因物質トリメチルアミンを作ることを話す。
それを中和するには酸が適当であること、
だから煮魚の隠し味に酢を一匙入れたり、
梅干しを入れて鰯を煮たりすることを話す。
(骨のカルシウムの吸収もよくなる)

その原理をひょいとつまみ上げ、
魚の調理中やあとかたづけにも応用するならば、
ビネガー水のスプレーが便利であることも申し添える。
こういうことに進んで耳を傾けるのは、
なぜか女性より男性が多い。
酢酸でいいかと即座に質問が返るので、
突き詰めればそうだが、
多少使いやすい工夫を奥様と相談して、
優雅に、かつ機能的にお試しあれと伝える。
携帯に残っていた香りつきビネガーの画像が役に立つ。

最近は何でも持ち歩く。
音も映像も文字データもどこかにあって、
がさごそするとアクセス可能な状態に置いておく。
言葉だけで説得できないとはつゆ思わないが、
早いのだ。とにかく。
ヴィジュアルイメージは「体験」の次に、
あるいは体験と同じくらい、
人を変える力がある。

むしろ言葉はもっと暗喩的に使い、
人が体験し得ないもの、
そしてまだこの世にないものを表す、
幻の織物が織られるのに捧げようと思う。

それこそが、
言葉に隠された恐るべき宝物だと、
かつてある人に聞いた。

詩人ではなく、
哲学者でもなく、
もの言わぬ霊長類を相手にする、
白髪の人類学者に。

鍋のシメは堅めにゆでた素麺を投入して、
サラサラといただく。
これが叫び出したくなるほど美味で、
完全にノックアウトされた。

最後は競争。
あっというまに食べ尽くされ、
自分は皆より一杯くらい少なかったかもと思うが(せこい)、
他人の胃袋に入った分さえ祝福したい気分だった。
この幸せな感覚、ずっと忘れない。