それはシフォンケーキに似ていた

クリームクレンザーという、
使いやすい天然素材の洗剤レシピを使って、
実に20年以上掃除をしていないと思われる、
換気扇をクリーニングする機会があった。

シロッコファンに、
たっぷりクリームクレンザーを塗る。
細かいブレードに全部当たるように塗ると、
思った量の3倍のクリームが必要だった。

少しあたためて汚れの分解を待つ。
数時間経って、さあ、落としてみようか、
というところからは、あまりの汚れ落ちのすごさに、
その場に居合わせた全員の注意がファンに集中した。

ごっそり落ちるのだ。数十年分の汚れが。
もはやフィルム状になって固まった汚れが、
ポコっとはがれるように、あるいはボロボロ切れて、
少し固くなったクリームごと落ちていく。

おおまかにこそげたあとはお湯で流すと、
みるまに残りの汚れも溶けて消えていった。

固唾を飲んで見守っていたせいか、
終わったあと、ひどくのどが渇いた。
もう終わったのに、目をつぶると、
そのあとも「汚れのケーキ」が見える。
重曹のクリームに覆われたシフォンケーキ。

かつてその家に暮らしていた家族の、
記憶ともいえない、もっとかすかな痕跡のようなもの。
分解され、解き放たれてほっとしているだろうか。