ぎんなんにあつらえ向きの

立派なぎんなんの実をいただいた。
これまではフライパンでから煎りしていたが、
ぜひ電子レンジを使ってみて、という。

紙の封筒にぎんなんを入れて口を閉じ、
数粒はじける音がするまでレンジにかける。
殻は飛び散らず、中身もよい具合に蒸し焼きになる。
もちろん封筒は使い古しでOK。

家に帰り、ええと、封筒封筒、と探していて、
実は使える古封筒がないことに気づいた。

宛名が書いてある封筒は、
すぐシュレッダーにかけるので、
完全な袋の状態で保管していない。

かといって宛名のない封筒は、
だいたいセロハンを貼った透明窓のところから、
中の書類に記した宛先が見えるようになっていて、
レンジにかけるには不向きだ。
セロハンをはがしたとしても、
その穴を別の紙でちゃんとふさがなくては、
密封してレンジにかけることにならない。

では新品の封筒?
うう、それはさすがにもったいない…。

というわけで、
材質といい、大きさといい、
ぎんなんにおあつらえ向きの封筒が、
ポストに届くまで、一週間近くを要した。

届いたときの、
うれしかったこと。

茶封筒に入ったニュースレターを取り出し、
(それはあとで読むとして)
いそいそと外身を台所に持っていって、
ぎんなんを入れる。

ポン!ポンポン!

特大のポップコーンのように、
ぎんなんは元気にはじけ、
包みを開ける前から、
香ばしいにおいを立てた。
もちっとしておいしい。

春、オスのイチョウが風に乗って飛ばした花粉を、
メスのイチョウが受け取り、秋に受精する。
花粉から出てきた精虫は、
卵までの道を泳いで渡る。

今となってはめずらしい生殖ストラテジー。
風の力を借り、最後は自力でよいしょ、よいしょ。
恐竜の頃には仲間の裸子植物がいっぱいいただろうけど、
その後の地球環境の変化の中で絶滅し、
現在のイチョウだけが生き伝えている。

風が吹いていること。
適度に暖かいこと。

昨日のように今日があり、
でも今日のように明日があるとは限らないよ。

固い殻のひびわれから、
翡翠色をしたぎんなんがのぞく。

それは忘れえぬ古い記憶のようにひそやかで、
このうえもなくあざやかな色をしている。