重曹の町に行った

バスの走る道路は、
ときおりひどく損傷しているところがあり、
スピードをゆるめて乗り越えたり、
ハンドルを切って回避したりする。

冬の雪と凍結、
夏の乾燥と容赦ない日差しが、
道路を盛り上がらせ、ひび割れを起こす。
いつもどこか修繕していなくてはならない、
そう地元の人はぼやいた。

道路脇の景色は、
一面の草原というよりも、
むしろ瓦礫と砂の合間に、
少し緑の植物が混じる状態になる。
昔、海だったという平野の地平に、
その頃は岬だったのだろう、
突き出した丘陵の始まりを見つける。

延々と走った先に、
点のように見えた重曹工場があった。
少し遠くからは鉄の森のように見えた。

砂漠のただ中に、
資源採掘のための町がある。
人口約3000人。
工場で働く人々とその家族が暮らしている。
学校もある。
重曹町といえばいいのかもしれない。

町は、近づいたかと思うとみるみる大きくなり、
入る直前に、ほら、そこを見てごらんと、
砂漠の先を指し示すガイドの声がした。
そこにはらくだの群れと、
白っぽく地面から突きだした岩石の列があった。

あれがトロナ鉱石ですよ。
自然に露出している。

その光景に目をうばわれている間に、
バスの窓はコンクリートの建造物に囲まれた。

工場の関係者さんたちと一緒に昼食を取り、
鉱石を露天掘りしているところに連れていってもらう。
そこら中にころがっている白いかたまりを手にとると、
アルカリ特有の肌が荒れる感覚があった。

重曹や炭酸塩を作る最初の工程では、
水にトロナ鉱石を溶かして泥や不純物を取り除く。
トロナの山で働く半裸の人々がいたので、
ニーハオと声をかける。
黙ってこちらを見ている。もうひと声。
ハオ マ?(〔調子は〕いいですか)
すると顔を見合わせ、笑いをこらえながら、
プーハオ!という答えが返ってきた。

確かに大変そうでした。
体に気をつけてがんばってください。

そのあと、ひょんなことから、
落としたかもしれない携帯を探しに、
ふたたび鉱床に戻った。

誰もいない広い土地に、
幾重にも重なった白いトロナの層が見える。
なんだか、おおきなケーキのクリームのよう。

あと数十年すると、
この鉱床は掘り尽くしてしまう。
経営サイドは先を見据えて言った。
もちろん、中国内に他の鉱床が何本もあるので、
ここが廃坑になっても特に問題はないと。

でも目の前に広がる風景は、
五感を通じて強く記憶された。
風に吹かれる無言の大地。
切り取られている。
かき集められている。

モンゴル重曹は、
確かに大量にある。
しかし無限ではないのだ。
そのことがはっきりわかり、
大事に使わなくてはと、
改めて思った。