山形県長井市の小桜館を訪問。
明治時代の貴重な洋風建築で、
地元の人々が大事に手入れし、使っている。
この歴史的建造物の中で、
集会やダンス教室、結婚式もOKなのだ。
カレンさんのレシピで木床を磨き、
白いしっくいの壁の汚れは、
そっと重曹で落とす。
会話するように。
オマエ、いつからそこにいるの?
きっと誰かの手についてたんだね。
ああ、少し、はなれ出した。
しっくいの、その位置から動けなかったものが、
重曹に巻き込まれて、はなし始める。
ワタシは、小さな子供でした。
お母さんに連れられて、小桜館にやってきた。
ママたちの習い事の間、ちょっと退屈で、
耳をかいたり、鼻をさわったり。
そのあと壁にもたれたの。
しっくいは冷たくて、しっとりと気持ちよくて、
おでこをくっつけても誰も怒らなかった。
ぺたぺた触った。手のひらも気持ちよかった。
そうやってワタシは壁に吸い込まれ、
ここに残っていた。
ホコリがつき、ゆっくりと黒ずんで、
手のひらの形、おでこの跡に浮き上がった。
でも今、溶けて布に移っていき、
あっちのシンクでゆすいだら、
あとは水に乗って地球に還っていくから、
そろそろサヨナラ。
そうやってあちこちで、
短いおはなしが終わる…なんてモノ語りを、
掃除しながらすっと想像してしまうくらい、
幾重もの陰影を感じるすてきな建物だった。
町を離れる前に、
市民の生ゴミを堆肥に農家が野菜を作るという、
モデルプランの産直市場に寄った。
小さなあけびがあって、
西の人は中身を食べるが、
こちらでは皮を食べるのだと教えてもらった。
本当かしら、と一袋買い、
きんぴら風に炒めて食べてみた。
ほの苦くてとろっとやわらかくて、
懐かしい、でも体験したことのない、
野生的な味だった。
こういうものが昔から食べられている土地だ。
爾来、考え方も大人なのかもしれない。