近江のミホミュージアム。
静かな山中にある。
エントランスを入るとすぐ、
真正面の大ガラスを屏風絵に見立てた、
優雅な借景が目に飛びこんでくる。
10年前に建てられた私設美術館だが、
ルーヴルの新館を設計したI.M.Peiによる、
印象的な直線の構造デザインに導かれて、
いつのまにか古代東洋美術の世界に入っていく。
織田信長の直筆書状のひとつを、
初めて間近に見ることができた。
季節の挨拶の短い手紙。
ふわり、丸くやわらかな筆さばきで、
荒々しい武将の風を全く感じさせない。
むしろ貴族的とさえ思うような字だった。
帰路途中、
源義経元服の地といわれる場所を通りかかる。
アスファルトの道路端にぽつんと立つ、
草地の中の細い石の柱だった。
時代は安土桃山からもっとさかのぼり。
青葉も、雷も、その頃から変わらない、
西日本の風土そのものだ。
日牟禮八幡宮から琵琶湖を眺める。
秋というにはまだ暑く、
光の量も多い、遅い午後。
一日ずっと、
不思議なきらめきに包まれていると感じていた。
山を下りる途中に、それは周りの樹木の、
いろいろな葉っぱからの照り返しであることに気づいた。
全く認識していなかった。
照葉樹林とは、なんと美しい植生なのだろう。
かつて北や東の国から来た者は、
まずその輝きに圧倒されただろう。
古代の日本人が、
花よりも葉を愛したわけが、
ちょっとだけわかった気がした。
昼も夜も、
夏も冬も、
いつでも分け入れば、
ダイヤのような光の粒に包まれる。
常緑広葉樹林帯。
まぶしい森。
キラキラの森。
息を吸い込むと、
忘れていた深い緑の香りがした。