久しぶりに会った友達、
初めて知り合った人々が入り交じり、
皆で美味しいものを食べようということで、
街一番の高級店に行くかどうか議論する。
行きたい派は、贅沢なものばかり注文せず、
今おいしい食材を店の人に聞いて、
地元の料理を楽しめば大丈夫だという。
行かないほうがいいんじゃない派は、
そのハナシに懐疑的。人数が人数だけに、
もっと安くておいしいところを探そうという。
30分ほど、もめたり電話をしてみたり。
結局、超がつくほど高級ではないが、
気取らない家庭料理の店としてはかなり有名、
というところに落ち着き、ぞろぞろ移動する。
街中のショッピングセンターの2階。
店内の壁に、数枚の写真が貼ってある。
仲良く肩を組む、父と息子とおぼしき料理人の姿。
先代の父は、まさに本日、行くかどうかを取りざたした、
超高級レストランの料理人だった。
政財界の大物や金持ちのために腕をふるい、定年で辞めた。
店を出してやろうという投資家たちの誘いを全部断り、
退職金もなにもかも、有り金はたいて自分の店を開いた。
店は次第に評判を呼び、家族連れが押し寄せるようになった。
以前の賓客たちも道端にメルセデスやロールスロイスを待たせ、
家族連れの隣のテーブルで、変わらぬ腕前に舌鼓を打った。
そんなこんなであっというまに手狭になった店は、
となりの衣料品店がたたまれるとき、
そことつなげて少し拡張されたけれど、
相変わらずショッピングセンターの2階で、
賓客ルームも駐車場もなく、そしていつも満席だ。
あちらのテーブルではティアラをつけた少女が、
家族一同になにかのお祝いをしてもらっている。
こちらのテーブルでは、おじいさんのためのお祝い料理。
しわしわの手が木槌を持ち、なにかの蒸し焼きだろう、
一番外の塩釜を割ろうとしている。コン、と音がして、
あとはちゃんと取り分けるために一度皿が下げられる。
うーん、儀式っぽくていいね。
私たちもをたくさん食べ、たくさん笑った。
おいしいもの、めずらしいもの、なつかしいもの。
さて、そしてお会計。
トータルを見た人間がうなっている。
どうしたの? 高いの? 安いの?
高い。けれども、安い。
のぞき込んだ人間がコメントする。
最初の予算に毛が生えたくらい。
これにはみな笑った。
まあ、あれだけ飲んで食べたのだ、
思ったより少し高かったけど、
超高級レストランで遠慮しながら食べるより、
このほうがよかったじゃないか。
そうだね、“毛”程度だからね、
よしとしましょうか、と、
2軒目のバーに流れると、
そこの椅子がなぜかちくちくする。
よく見ると、座面に毛が生えているのだ。
ビロードではなく、もっと粗い密度の、やわらかい毛。
おかげで「○○に毛」の構文で、
いろんなものに毛を生やしてはその意味を考える、
奇妙な二次会ゲームが誕生した。
というわけで本日のキャッチコピー。
be hairy,
be bold,
be audacious!