2007年5月2日(水)年間アラーム

日御碕に電話する。
今年は少し遅くなってしまった。
天然の板ワカメは毎年4月に入るとよい時期を迎える。
ほんの短い間だから、忘れないようにしなくちゃと思っていたのに。

幸いなことにまだ在庫を集めることができるとおっしゃるので、
お手数かけますが、とお願いする。

年間アラームってないものかしら。
各地のいろいろな、かけがえのない人と食。
食べものには旬があるので、変なときに思い出しても、
お人には連絡がつくが、食には再会できない。

初めて板ワカメを食べたのは、
都内の出雲蕎麦の店だった。
重箱などより二回りくらい大きいだろうか、
簡素な白い紙箱にビニール袋もなにもなく、
乾いたワカメが切り収められていた。

しょっぱいのかと店の人に尋ねると、
そんなことはない、このワカメは水洗いして天日で干すから、という。
軽くあぶって食べると最高ですよ、と勧められ、
出てきた美しい翡翠色の焙りワカメは、
たちまち満座の喝采を浴びた。

食べ出すととまらなくなるのだ。
お酒のピッチもどんどんあがる。
結局、ほぼ一箱、皆で食べてしまったのではと記憶する。
特に男性陣の手を伸びようはすごかった。
この食べものの中には、
なにか日頃いつも私たちに足りていないものが、
入っているのかもしれないと、ふっと思った。

時が経ち、あるときからその蕎麦屋では、
板ワカメが手に入らなくなった。
そうなると欠けたものを探すように欲しくなる。
そのころ、偶然、出雲とのご縁を得た。
ワカメを食べていた仲間と海っぱたを歩き、
潮風と雨に打たれた。
そして、岬の民宿で珍しい海の幸に囲まれ、
対馬暖流と島根冷水が豊かな生物相を生み出すという、
荒々しくもおおらかな海の姿を、やっと少し知った。

今の私たちの体にはミネラルが足りないと言われる。
土にそれが不足しているので、食べものもそうならざるを得ない。
田畑に海藻をすき込んだり、にがりを撒いたり、
苦労して陸上に海を持ち込む工夫がなされているけれど、
もう一つ、別のルートがあるように思う。

上品で何にでも気軽に混ぜたり乗せたりできる板ワカメは、
海と人間が直につながる、一筋の奇跡的回路だ。