2007年2月23日(金)胡蝶夢

都心の静かな高層ホテルの部屋で、
虫に魅せられた人々が語り合う。

つかまえてきた蝶を、
部屋ほどの大きな虫カゴに入れると、
網にぶつかり、ぶつかりして傷ついてしまう。
でもそのカゴの中で生まれた蝶は、
ゆったり上手に中で飛び回る。

よくわかるのは、
捕獲者が現れたとき。
逃げようとして不意に高く飛翔する。
野生の蝶は天井に衝突する。
虫カゴ生まれの蝶は、ふわり、舞うけれども、
天井の外にはそもそも空間がないかのように、
やがて元に戻ってくる。

種全体として、
習性の変わらないと思われている虫も、
その程度には学習する。

もっと学習する可能性の高い生き物、たとえば人間も、
どこまでが生得でどこからが学習かを、
静かに見つめていることは大事なことかもしれない。

私たちは、虫カゴのように、知らぬ間に、
鋳型となって学習せしめている環境まで、
ちゃんと見抜けているだろうか。

虫カゴの網目を、蝶の目には見えず、
体が通り抜けることのないくらい、
適度に粗いものにすると、
野生の蝶も落ち着いて、
網にぶつかる回数が減る。

見えないほうが従いやすいのだろう。
でも。

従うしかない環境にはめ込まれていても、
その外にそうではない環境があることを、
知っている蝶でありたい。

透かし編みのカーテンの向こうに、
東京の町並みが小さく見えている。