都心の静かな高層ホテルの部屋で、
虫に魅せられた人々が語り合う。
つかまえてきた蝶を、
部屋ほどの大きな虫カゴに入れると、
網にぶつかり、ぶつかりして傷ついてしまう。
でもそのカゴの中で生まれた蝶は、
ゆったり上手に中で飛び回る。
よくわかるのは、
捕獲者が現れたとき。
逃げようとして不意に高く飛翔する。
野生の蝶は天井に衝突する。
虫カゴ生まれの蝶は、ふわり、舞うけれども、
天井の外にはそもそも空間がないかのように、
やがて元に戻ってくる。
種全体として、
習性の変わらないと思われている虫も、
その程度には学習する。
もっと学習する可能性の高い生き物、たとえば人間も、
どこまでが生得でどこからが学習かを、
静かに見つめていることは大事なことかもしれない。
私たちは、虫カゴのように、知らぬ間に、
鋳型となって学習せしめている環境まで、
ちゃんと見抜けているだろうか。
虫カゴの網目を、蝶の目には見えず、
体が通り抜けることのないくらい、
適度に粗いものにすると、
野生の蝶も落ち着いて、
網にぶつかる回数が減る。
見えないほうが従いやすいのだろう。
でも。
従うしかない環境にはめ込まれていても、
その外にそうではない環境があることを、
知っている蝶でありたい。
透かし編みのカーテンの向こうに、
東京の町並みが小さく見えている。