金鎖が何本もぐちゃぐちゃにからまってほどけない。
どれどれ、貸してみて。
バケツ一杯、炒ったぎんなんがあるんだけど。
殻取りと薄皮剥き、やるよ。貸してみて。
本一冊分データがなくなってプリントアウトしかないの。
打ち込めばいいんでしょ。やるよ、貸してみて。
膨大な単純作業というものを、
けっこう愛している。
やれば終わる道筋が見えているものは、
途中の作業がどんなにたくさんあっても、
それほどこわくはない。萎えることもない。
作業を終えて、出来上がったそれを、
「はい」と、びっくりしている人に返す。
たいてい、大変だったでしょう、という労いの言葉がかかるが、
そんなでもなかったよ、と答える。うん。本当にそう。
本当に大変なのは、
どうすればほどけるかわからない鎖。
どうすれば食べられるかわからない木の実。
どうすればよみがえるかわからない物語。
でも途方にくれるときも、やっぱり、
目の前の単純作業から始めるかな。
ばかみたい、と思いながら、
いいやと首を振って掃除する。
ときどき、そういう流れにぶつかる。
けっこう難敵だったりすると、
ぎんなんの翡翠色ってきれいだな、と思って、
突然食べたくなったりする。