10月30日(月)さんこうになる話

今でいうところのIT関係、の大先輩から、
古い時代のデータ保存の方法を聞いた。
鑽孔(さんこう)テープという。
紙の細いテープに孔を開け、そのパターンで情報を示す。
点字のようにタイピングするものだったという。

瞬間、記憶がよみがえる。
あれのことに違いないと思う。

私、見たことがあります、というと皆のけぞる。
この業界長いが、さすがに見たことない、と。

えっとあの、電気工学が専門の叔父が若い頃、
なにかの拍子に持ち帰ったのを、
幼心に覚えているのです。
今思えば廃棄されたものだったかもしれない。

するするとほどいて遊んだ。
紙は簡単に切れ、
穴ぼこの手触りが面白かった。
スライドさせて、
孔から向こうの景色を覗いた。
色鉛筆やマジックで、
長い長い落書きもした。

それがなにかの「言葉」だということは、
そのときからわかっていた。
コンピュータという単語を聞いただけで、
周りの大人達が魔法にかかったように、
希望に満ちた目をするのを知っていた。
解読することはできなかったけれど、
点の織りなす規則性のある模様を、
飽きずに眺めたりもした。

紙は、特殊な作りのもので、
今はもうないだろうといわれる。
普通の紙では打ち抜く針がすぐにダメになるので、
ほどよく油をしみ込ませてあったそうだ。

オペレータの女性達は、
タイプマシンが追いつかないくらい、
それはそれは素早く打ったという。

あまりに面白かったので、
鑽孔じゃなかった参考ページをリンクする。

いろんな技術、製品、それに関わる人がいる。
そのたび、無数の工夫が生まれては消える。
でも鑽孔テープ上の信号は、
現在のアスキーテキスト誕生の直接事由であり、
私たちは確実に前の時代の螺旋の上に生かされている。
ほら、この文章も。ね。

かつて覗いた紙の穴の向こう、
本当はこんな未来が見えたのかなあ。