隣の席のサラリーマンが、
オシムの戦略について声高に話している。
マンツーマンになったとき、
今の日本の実力では、
たとえば世界の誰それにかなわない、
それなのにあのポジションにアイツを入れて、
まともに対峙させている。
絶対無理だと思いませんか。
まだゾーンディフェンスのほうがましなのに。
この間の試合がよほど歯がゆかったのだろう。
これだけ肩入れされ、
愛されるスポーツになったということ自体、
ここしばらくの間に遂げられた、
サッカーというスポーツの驚くべき進化。
確かにしばらく負け続けるかもしれない。
勝ってもヨレヨレで「辛勝」と言われ、
万雷の拍手はわかないかもしれない。
でもそれでいいと思う。
オシムがまだ慣れぬ若い世代の選手に、
今伝えようとしていることのひとつには、
一人が独立して背負う責任の重さについて、
ということがあるような気がする。
ゾーンでは永遠にそのことに気づけない。
誰もフォローなどしてくれないということ、
一度そのポジションにはまったら、
ひとり屹立して全てを背負うんだということを、
負けて負けて悔しくて身もだえする中で、
血肉にしていけと言っている気がする。
たぶん、そこが今私たちに一番足りないところだから。
四季の巡る、優しい国に生まれた。
放っておいても水と緑の溢れる、
小さいけれど、奇跡のような恵みの土地。
すでにここ自体がゾーンディフェンスされているんだよ。
そのことに、始めから聖域の中にいる生き物は気づかない。
あるいは気づいても、
ずっとひとりで砂漠で戦えるほどの野性を、
あとから養うことは不可能だろう。
でもちゃんと必要なときは砂漠に対処できないとね。
おびえるのではなく、むしろ、
周りをサンクチュアリに変えてしまう力をして、
この先一対一の次元を止揚できたらベストかもしれない。
もちろん、それはサッカーだけに限らず。