7月19日(水)湖の底から

個人的、仕事的に軽くドタバタ。
その間に、なんとか通信環境は元通り復活。
再開の運び、ありがたく。
天地人に感謝する。

雨続きの朝、
いくつか、スイートのショールームを申し込んでいたので、
ホテルニューグランドに向かう。

日本サイズの部屋に舶来サイズの家具。
古い建物は窓を大きく取れないこともあり、
リズミカルに陰影が交錯している。

このギュウギュウ感がいいかも。
古めかしいことがわかっていて、
しかし敢えて残してある、
一所懸命な、当時の日本のおもてなし。

掃除、大変ではありません?
と、余計なことを聞く。

すると、ええ、家具の面積が広いので、とのお答え。
あちこちぶつかりながら必死で磨いています。

さにあらん。
がんばってらっしゃるんですね、と何度もうなずく。

昔のまま、を維持継続することは、
新しく作ることとは別種の努力が必要で、
しかもそれは作ると同じくらいしんどいにもかかわらず、
努力してもなかなか目に見えない。

この、練習曲線でいうプラトーのような状態を、
なぜ続けるか。どのように続けるか。どう引き継ぐか。

たいていの物事は、深く問えば必ず、
その命題を突き付けられていると思う。

少々打ち合わせ、
礼を述べてホテルを出ると、
突然の強い風にあおられ、
ビニール傘が裏返った。

おちょこの形になった傘を、
あきれて下から眺める。
無数の雨粒が集まり、
小さな湖を作り始めている。

無心に。
そう、無心に雨粒は続けている。
取るに足らない一滴ずつが集まって、
どんなことも成し遂げる。

明治屋に着いたので、
パンッと傘をはじく。

裏から見た湖が、
まだ目に焼き付いている。
龍神が湖を作るときは、
きっと最初、あんな風景を見るのだろう。
続けよと命じた主は、
やがて深まり、蒼くなる水底に、
隠れて見えなくなるけれども。