脱臼

母の肩が「亜脱臼」と診断された。

動かないほうの肩の関節が、腕の重みと、筋力の低下で、完全ではないけれど、脱臼の症状を起こしたのだ。

急な呼び出しで駆けつけると、母は、痛みで泣いていた。
泣くつもりはないのだけれど、痛みで涙が出てるようだった。
絞り出すような声で「いたぁ・・・い」と、何度も何度も私に訴える。
その声はあまりに切なくて、こちらも泣きたくなるような声だった・・・。

モチロンそこは病院、すぐにレントゲンが撮られて、整形の先生の診断を仰ぐことに・・・。2つの選択肢を突きつけられる

その1 肩を固定してしまう。こうすれば脱臼を起こさない。だが、右腕のリハビリは続けられないということになり、そちらの腕の機能は断念することになる。

その2 三角巾で腕を吊って、リハビリを続けて、回復するかもう少し様子を見る。

だが、現状、4月からすでに3ヶ月以上たって、ほとんどこれ以上の運動機能の回復の可能性はかなり薄い。
しかも、脱臼はかなりな痛み・・・・それをこれからも起こす可能性がリハビリを続ける以上発生する・・・。
それらを総合して、その1を選択することにする。

弟や祖母にもその旨を伝え、事後報告でごめんね、とそれぞれ携帯で話を終えた。

弟は多少、反発もあったようだけど(ここまで母がよくなったのだから、もっとそちらにも可能性を信じたいのだ・・・)私は、この決断をするのに随分と迷ったけれど、こうした。

まず、肩を掴めないということは、とてもお風呂の介助の時に危険を伴う。
肩を軽くつかみ支えるだけで立てるシーンでも、おなかと背中を別々の手ではさむように支えると、こちらは中腰・・・・とても大変。
いざという時、支えられない・・・両方の手が塞がっているから・・・。
(今日、お風呂の介助の日だったけれど、その状態で作業をすると、相当にダメージがきつくて、午後から、電話番くらいしか仕事にならなかった・・・ぐったり疲れ果てた・・・・(T_T))
・・・と、こちらサイドの理由がまずある。

それから先に述べた、回復のパセンテジの問題だ・・・・・。
危険に対して、痛みに対して、回復のパセンテジはあまりに低い・・・。
自分の身に置き換えた時、私は続けるだろうか・・・?
痛い間、他の部分のリハビリが止まる・・・・そのことのほうがデメリットが大きいと感じる。
今ある機能を失う危険性が私には恐い。

だから、「固定」させるほうを選んだ。

間違ってるかもしれないし、母が正常な状態だったら別の答えを選んだかもしれない。
迷いだらけで、自分が情けない。
でも、選択せざるを得ない・・・・だから、最良と思えるほうを選んだ。

事情を母にも説明し、なんとか理解を得る・・・・本当のところはどれくらい理解できてるか分からないけれど、「痛いのはもう嫌?」と聞くと、大きく何度も何度も頷いた・・・「うん、うん」と声を出して。
これを本心と受け取り、夜の着替えを手伝いながらシップを新しいのに張り替える。

まだ迷いはある・・・・けれど、その方法で行くしかないのだ。

親の行く末を子供が決める日が来るなんて、こうなってみるまで思いもよらなかった。
そして、それが、こんなに悲しくて切ないようなことだとは知りもしなかった。

私が命尽き、自分の子供に身の振り方を託す時、決めるべきことは決めておこうと、襟を正しておかなくてはならない。
遠いと思っているけれど、それは、そんなに彼方ではないのだと思う。
手の内に答えを用意をしておこうと思う。
まだ、その手を開いて、息子や相方に見せることはないけれど、確かな答えを握り締めておこうと思う。

母の教えてくれることはそういう事なのだ、と思う。