昼過ぎに訪ねた家の主に、
夕方から安息日に入ると告げられた。
祈りを捧げながら夕食をとるけれど、
構わないでいてくださればいい、と。
燭台がテーブルに置かれ、
ろうそくが点される。
女性と子どもたちがてんでにおしゃべりする中、
主はその日を迎える歌を静かに歌い、
パンをちぎって一人一人の前に置く。
私の前にもパンが置かれた。
思わず合掌して受け取る。
赤ワインがたっぷり注がれる。
食卓の上のものを好きに取ってといわれ、
パンとワインと煮た野菜を口にする。
おだやかでゆったりした夕べだった。
話に熱中して気がつくと11時近くになっている。
なんて長居をしてしまったのでしょう、と、
詫びをいい、いとまごいをする。
家族で送るからと、みなで薄暗がりの中、
ギシギシ鳴るアパートの階段を降りてゆく。
タクシーに乗っても、
頭の中でさっきの歌がおぼろにこだまする。
ディアスポラ以来、
彼らの精神を一つ処に集め続けた力。
地理的な隔たりを超え、
果たし続けるいにしえの約束をかいま見て、
親から子に受け継がれるものの重さを思う。
帰ると、近くの和食の店に来いという連絡が入っている。
ふう、こうなれば我が同胞たちとも杯を交わさねばなりますまい、
と、ひとりごち、また部屋を後にする。