5月18日(木)ミシュランを頼りに

「足が傷だらけですよ」
と指摘される。

知っています。
崖を登り降りし、草むらとか歩いたからでしょう。
宿に着いたらよもぎの油を塗ります。

そのとき当たり前のことに気づく。
昔のスカートがくるぶしまでと長かったのは、
文化的な意味合いで足を隠すというよりも、
ケガをしないための実際的カバーだったかも、と。

草原を乙女がかけていく。
そのとき、スカートが短かったら、
たちまち乙女は傷だらけだ。
うーむ、実に絵にならない。

わかっていたらジーンズにしたのですが、
行ってみるまでわかりませんものね。
それに、あまりカジュアルにしていると、
食事や宿に着いたとき不都合が生じますし。

そう、ここは洋服文化の始まったところ。
服装は日本以上に無言のサインとして機能している。
どこに行っても半ズボンのアメリカ人は、
だから一目でわかってしまう。

妙な旅だ。
スーツを着ながら自然の中にいる。
次の瞬間、瀟洒な人工的環境にいる。

この百年余りの間にミシュランがガイドしたのは、
一般市民もこのギャップを楽しむ方法かもしれない。
彼らは見知らぬ土地で縁なき者もつなぐことのできる、
選りすぐりのアクセスポイントを保証した。
やがてその保証を得られるかどうかが、
ホテルやレストランにとって一大関心事となった。

宿に着き、
足をラベンダーで消毒し、よもぎの油を塗る。
傷すらも旅の記憶に陳列される安全な国。

開発とは、すっとばしていえば、
“肌見せ”のことかもしれない。

もっとも、膝小僧から下は安全と思い込めた時代は、
テロルの襲来とともに終わりを告げたけれど。
この先の未来、
どんなアクセスポイントなら、
すべての人の心に受け入れられるのだろうと考える。