毎日、ギリギリの日程で街から街へ移動していると、
宿泊先のランドリーサービスを利用するのは難しい。
とはいえ、旅の日数分のドレスと靴を持ち歩くような、
巨大なスーツケースを持つのでなければ、
自分で洗えない上着やニット、ワンピースなども、
いつか再び身につけることになる。
昔、同じようなパターンの長めの旅をしたときは、
そのことがけっこうなストレスだった。
だんだん旅の思い出をしょって、
しわやにおいを重ねていく洋服たち。
今度の旅にも十分に同じことが予想された。
そこで、重曹を始めとする自然物質で洋服をケアし、
また気持ちよく身につけられるように、
毎日、リカバリー作業を行おうと決めていた。
名づけて“洗わないクリーニング”。
持ってきた空のスプレーボトルが威力を発揮する。
洋服ケアのためのミストクリーナーは、
重曹や精油を持っていれば、
旅しながら作ることができる。
2、3日おきに作ってはたっぷり使う。
うっかりつけてしまったしみには、
だいたいの宿の冷蔵庫には必ず入っている、
強めのスパークリングウォーターが活躍してくれる。
疲れて宿に入り、着替えるとき、
服にかけていく魔法の霧のおだやかな香りに、
洋服だけでなく、
洋服をケアしている側がどれほど救われるか。
一日くたくたに服につけてしまった、
さまざまな埃やにおいをさりげなく退け、
シワや汚れもいつのまにか消えていく、
お気に入りの洋服たちの翌朝の清潔な様子に、
ケアしたこちらまで新しい元気をもらう。
どこにいても、なにをしていても、
私たちの生きていく道のりを支え、
繕い、まかなう営みの底力に、
改めて感心する。
繕い、まかなうとは、暮らしを営むことの別表現だ。
その意識的な動作をハウスキーピング(家事)ではなく、
ライフキーピング(生命維持)と言い換えたときに、
本当の価値はわかるのかもしれない。
明日は4日前に袖を通したニットをまた着よう。
大丈夫、新品によみがえって再びトランクに収まり、
また人に着られるのを待っている。
4日前の旅の記憶はそろそろ整理され、
すばらしかった景色や出来事に収斂しつつある。
その日着ていた服も、
どこかその日の思い出に似ている。
静かで、いつでも取り出すことのできる、
ピュアな記憶。
それらはいつでもよみがえる。
いまや何度でもくり返し、再生する方法を知っているのだから。