5月14日(日)いつでもよみがえる

毎日、ギリギリの日程で街から街へ移動していると、
宿泊先のランドリーサービスを利用するのは難しい。
とはいえ、旅の日数分のドレスと靴を持ち歩くような、
巨大なスーツケースを持つのでなければ、
自分で洗えない上着やニット、ワンピースなども、
いつか再び身につけることになる。

昔、同じようなパターンの長めの旅をしたときは、
そのことがけっこうなストレスだった。
だんだん旅の思い出をしょって、
しわやにおいを重ねていく洋服たち。

今度の旅にも十分に同じことが予想された。
そこで、重曹を始めとする自然物質で洋服をケアし、
また気持ちよく身につけられるように、
毎日、リカバリー作業を行おうと決めていた。

名づけて“洗わないクリーニング”。
持ってきた空のスプレーボトルが威力を発揮する。
洋服ケアのためのミストクリーナーは、
重曹や精油を持っていれば、
旅しながら作ることができる。
2、3日おきに作ってはたっぷり使う。

うっかりつけてしまったしみには、
だいたいの宿の冷蔵庫には必ず入っている、
強めのスパークリングウォーターが活躍してくれる。

疲れて宿に入り、着替えるとき、
服にかけていく魔法の霧のおだやかな香りに、
洋服だけでなく、
洋服をケアしている側がどれほど救われるか。

一日くたくたに服につけてしまった、
さまざまな埃やにおいをさりげなく退け、
シワや汚れもいつのまにか消えていく、
お気に入りの洋服たちの翌朝の清潔な様子に、
ケアしたこちらまで新しい元気をもらう。

どこにいても、なにをしていても、
私たちの生きていく道のりを支え、
繕い、まかなう営みの底力に、
改めて感心する。

繕い、まかなうとは、暮らしを営むことの別表現だ。
その意識的な動作をハウスキーピング(家事)ではなく、
ライフキーピング(生命維持)と言い換えたときに、
本当の価値はわかるのかもしれない。

明日は4日前に袖を通したニットをまた着よう。
大丈夫、新品によみがえって再びトランクに収まり、
また人に着られるのを待っている。

4日前の旅の記憶はそろそろ整理され、
すばらしかった景色や出来事に収斂しつつある。

その日着ていた服も、
どこかその日の思い出に似ている。

静かで、いつでも取り出すことのできる、
ピュアな記憶。

それらはいつでもよみがえる。
いまや何度でもくり返し、再生する方法を知っているのだから。