5月12日(金)眺むる橋に群れなすは

プロバンスを北へ。
赤い土と奇岩、そしてポピーの揺れる強い光の中、
ローマ人の作った巨大な水道橋を眺める。

フランスでも、
思った以上に田舎は観光化している。
なにしろ、こんなところに、と思う先まで、
大型バスがグイグイ乗り付け、
新しく建てられた観光センターに団体客がゾロゾロ。
何人もが閉じこめられ苦しんだ城も、
大勢の住民が殺された砦も、
観光の旗印の前ではひどくフラットな表情だ。

橋は立ち入り禁止の世界遺産となり、
お金を払って眺めるだけの対象に変わっている。

以前は誰も管理者がおらず、
勝手にそれを渡ることすらできた。

誰もいない古代の橋を歩く。
落ちたら死ぬだろうが、
ステキな体験だったろうなあと思う。

危ない橋を渡るも渡らぬも、
自由に決断できれば冒険譚になるだろう。
でも、観光旅行はガラス越しの見学コースに似ている。
いくら旅をしても、原義である困難(trouble)に出合うことは、
もはやまれなことかもしれない。

だからというわけではありませんが、
あの、えと、お土産屋さんで携帯ストラップを探すの、
そろそろ止めませんか。

もしプロバンスのアイコンが、
そこまでフィーチャーされていても、
うれしいような、悲しいような。

行く先々に、フランス語、英語、
そして日本語の解説パンフレットがあるだけで、
十分に分厚いガラスの壁を感じまする。

ストラップは、
永遠に中に入れぬ拘束帯かもしれませんよ。