近所の仕立て屋さんに、
うさとで買ったヘンプのシャツを持っていった。
少しだけ身頃をしぼりたかったのと、
他にも夏物のリフォームを頼みたかったので。
女主人自ら、いつも流行のラインをよく理解し、
腕のいいお針子さんが揃っているこの店は、
「もし引っ越してこのお店が遠くなっても、
洋服の相談のためにわざわざやってくるだろう」と、
通う人々皆が口にする頼もしいお店。
シーズンごとに殺到する大量のお直しを見事にさばき、
大好きな洋服を、時代の息吹きに合わせて、
生き生きと甦らせ続けるお店でもある。
シャツを一目見た女主人は言った。
「あら、いいシャツね。襟がちょっと変わっててとてもかっこいい。
ちょうどその形に仕立てると合うだろうなと思う麻があるの、
型紙取らせてもらっていい?」
しばしうさとの服談義。
「麻の服はむずかしいのよ。動くうちにシワになって丈が短く見える。
でもこのシャツは……ああ、ホラ、腕だけバイアスになってる。
これなら伸縮性があるので、腕を動かしても楽でしょう?」
やはり服をよく知る人の見る目は違った。
またもや目からウロコだ。
このブランドのデザイナーさんは、
タイ・イサーンの女性たちに、
パーツのバイアス取りまで教えている。
なんと細やかな仕事だろう。
始めから民芸品の域を超え、遠くを見通している服。
その服を身にまとうであろう、別の国で買い求める人を、
ひたと見据えている。
ここまでやればいいんだ、やれるんだ、
どこで服作りをしようと、それを仕立てる精神と技術に、
着る人のことを忘れる距離はないということだ。
「バイアス」って布を斜めに使うことから転じて、
「片寄り」とか「偏見」とかいう意味があるけど、
いみじくもアジアの服に対するバイアスを解く、
鮮やかなバイアス使いを見た。