あちこちのソメイヨシノが満開だ。
この季節、見事な桜を見かけると、
デジカメで撮って海外の友人に送る。
サクラガ サイタヨ
これだけで、ふるさとの国に再び巡り来た寿ぎの季節が伝わる。
ソメイヨシノの白に近いはかないピンクは青い空をバックに。
枝垂れ桜の赤に近いピンクは柳の若緑がにじむ水面をバックに。
そのときできるかぎりの工夫をして、一期一会を美しく撮る。
桜の下を通るたび、この花を誰に届けようと携帯を取り出す。
花は使者となり、亜空を飛ぶ。
カチリと行き先をクリックすれば、どこにでも。
かつて学舎で無邪気な時を過ごした友のもとに。
今ここにいてかけがえのない時を与え合う人のもとに。
そしてもうこの世に肉身なき、忘れられぬ魂のもとに。
桜には、
どこか黄泉に通じる、不思議で恐ろしいところがある。
根元に死体が埋まっているとよく育つとか、
咲いた花なら散るのは覚悟とか、
いつのまにか桜と結びついた言い伝えや歴史は、
そのことを、どこかしらなにかしら含んでいる。
再びの春。ヨミカエリの春。怖い春。
あなたの春はどちら。
黄泉から帰るの?
黄泉に帰るの?
死と再生をくり返す生き物の世界の交差点に、
もっとも美しくたたずむ木の花、
それが桜なのかもしれない。