朝、“庭師”Yさんともに畑作りの続きを行う。
シャベルで黙々と土を移動していたら、
「ペンより重いもの持ったことないふうなのに、
シャベル使いうまいですよねえ」
と、妙な褒められ方をする。
ありがとう。実は私のシャベル使いは、
ほとんど力を使わない。
自然に体の各関節が動く向きを利用し、
あとは、てこと振り子の原理を活かして、
最小限の力で道具を操る。
こんなワザ、最初から知っていたわけではなく、
ずっと昔にそれを教えてくれたおじいちゃんがいるのだ。
かつて陸軍部隊に所属し、
一兵卒として塹壕を掘り続けた彼は、
そのようにシャベルを扱うと、
どれほど作業が長くても倒れずに済んだという。
そのとき私は彼の体の動きを見ていただけで、
自分でやってみたわけではなかったが、
見ておいてよかった。
それだけで伝わるコツというのも存在する。
仕事のあと、夜は小さなパーティーに出席する。
詩の朗読を聞き、最後は都心の木立の間を、
大きな白い月を眺めながら、ひとり散歩する。
兵士から編集者に、その後、聴衆、
最後は月下を逍遥する身となれり。
いったい私たちは、たった一日の間に、
いくつの叡智にログオンするだろう。
シャベル使いは死なないコツ。
月を見るのはヨミガエリのコツ。
どちらも得難い、過去からの贈り物なれば、
ひたぶるに感謝、また感謝。