3月14日(火)ログオン

朝、“庭師”Yさんともに畑作りの続きを行う。
シャベルで黙々と土を移動していたら、
「ペンより重いもの持ったことないふうなのに、
シャベル使いうまいですよねえ」
と、妙な褒められ方をする。

ありがとう。実は私のシャベル使いは、
ほとんど力を使わない。
自然に体の各関節が動く向きを利用し、
あとは、てこと振り子の原理を活かして、
最小限の力で道具を操る。

こんなワザ、最初から知っていたわけではなく、
ずっと昔にそれを教えてくれたおじいちゃんがいるのだ。

かつて陸軍部隊に所属し、
一兵卒として塹壕を掘り続けた彼は、
そのようにシャベルを扱うと、
どれほど作業が長くても倒れずに済んだという。

そのとき私は彼の体の動きを見ていただけで、
自分でやってみたわけではなかったが、
見ておいてよかった。
それだけで伝わるコツというのも存在する。

仕事のあと、夜は小さなパーティーに出席する。
詩の朗読を聞き、最後は都心の木立の間を、
大きな白い月を眺めながら、ひとり散歩する。

兵士から編集者に、その後、聴衆、
最後は月下を逍遥する身となれり。

いったい私たちは、たった一日の間に、
いくつの叡智にログオンするだろう。
シャベル使いは死なないコツ。
月を見るのはヨミガエリのコツ。
どちらも得難い、過去からの贈り物なれば、
ひたぶるに感謝、また感謝。