天の回廊を冬と春が行き交う。
間の季節には、カシミヤを愛している。
たとえば肌寒いなら、幾重にも重ねて暖める。
風さえ吹かなければ、コートなしで出かけ、
もし風が吹いたら、極薄のパシュミナをふわり。
今は首の周りにくしゅくしゅ丸まっているけど。
暑いなら、重ねた衣を次々と取りのぞく。
キャミソールにカシミヤのタンクトップ1枚になっても、
二枚の布が暖かな空気をはらんで体幹をおおい、
大切な体の芯を冷やさず、かつ涼しく過ごせる。
暑すぎず、寒すぎず。
カシミヤと一緒の日は、いつも体が、
ほっとするような間春に包まれている。
この繊維を超えるような、
人工繊維は生まれるだろうか。
スポーツや医療、工学などの分野で、
人は様々な機能性繊維を身につけ、
またそれが話題になる現代だけれど。
仕事場や出先のホコリやたばこをくぐり、
家に帰り着く頃には、カシミヤたちもぐったり。
そっと鼻を当てると、今日訪れた場所のにおいがする。
ずっと守ってくれてありがとう。
ローズマリーとティーツリー、ベルガモットの精油をエタノールで溶き、
精製水で満たす。そこに指の先ひとつまみ分の重曹を溶かした、
衣類のためのお手製フレッシュナー。手に取り、細かな霧のヴェールを、
ハンガーにゆれるカシミヤたちにかけてやる。
それからエアコンをドライモードで1時間。
タイマーをかけたら部屋の電気を消し、寝室を出る。
次に部屋に入ったら、精油の香りがかすかに残っているだけ。
カシミヤたちも、あわい香りをまとってほっと息をついている。
こうやって繰り返し、繰り返し、
カシミヤも私も、一日終わるたびに繕われている。
自然の恵みにヨミガエリの魔法をかけていただいているのだ。
この繕いのとき、復活のときがあるから、
明日も元気に生きていける。
繕うとは、なんとありがたいことだろう。