2月3日(金)まとめ買い

節分に豆を撒かない。
いつのまにか、それが習慣になっている。
(ないことを習慣というならば)

事の起こりはもう数十年前、
その頃は世間一般の常識通り、家族で豆を撒いていた。
大人たちはチャッチャッと手際よく、
各部屋の隅々に少量ずつ撒いていく。
子どもたちも撒く。
家族の中で一番小さい人も、
なにかブツブツささやきながら家の中を回っている。

よく聞くと。

小さい人はこう唱えていたのだ。
「福は内、鬼も内」

それを聞いて父は怒った。そんな呪文があるか。

小さい人はベソをかきながら抗弁した。
「だって鬼がかわいそうだ」

大きい人々は少なからず衝撃を受けた。
この子の言うことには一理ある。
いや待て。うちに鬼がいたら困るではないか。
縁起でそうすると昔から決まっている。
いつからだ。いたら何をするというのだ。誰か知っているのか。
そういえば、私たちが追い払おうとしている「鬼」って何だ。
ワレワレハ、ナニヲ封ジヨウトシテイルノカ。

節分の夜の鬼談義は、
大きい人たちが一杯、二杯と酒を飲むうち虚空に消え、
しかし翌年の節分からは、なんとなく、
豆は投げずにおいしく食べるだけの存在になった。

ひい、ふう、みい……ハイ、○○ちゃんの分。
またひとつお豆さんの数増えたね。今年もがんばろうね。

そんなわけで、
その暗がりに鬼がいる。かもしれない家で育ったので、
炒り豆はツマミか精進の出汁にいたします。
節分の直後、売れ残ってるお豆さんは、
おまとめ買いのチャンスです。