朝、町田近くのマンションギャラリーへ。
本を読んでいて電車を乗り間違え、やや遅れて到着。
関東圏で広く展開されているシリーズマンションの、
コミュニティ誌編集部に話をする。
春号なので、
ほこりや花粉の季節を快適に過ごす術をピックアップ。
重曹を使ったうがい液、鼻の洗浄液、
衣替えにたっぷり使える消臭と虫除けの手作りサシェ、
歯磨きペースト、簡単なデオドラントパウダーなど。
メモを取るライター女史は「ノウハウの前に」と切り出す。
こんなふうに暮らしに重曹を使う意味は何ですか。
重曹は本当に安全なのですか。
瞬間、細かいブツ撮りやレシピのことなどどうでもよくなる。
言いたいことがいっぱいあってつっかえる子どものように発声する。
重曹はもともとあなたの体の中にあるということ。
今の今も体内環境のバランスを取るために働いているということ。
その働きの、最もわかりやすい現れがあなたの呼吸であること。
そのようにして、放っておけばみるみる酸化して死んでしまう生命を、
絶えざる再生の道に引き戻している物質であること。を話す。
「なぜ重曹が体の中にあって、
そんな重要な働きを担っているのでしょう」
なぜって、私たちには選べない、
地球が採用した浄化のシステムだから。
それと同じ原理で私たちの命は守られているから。
地球のキレイとあなたの健康は同義。
話はますますマンションから遠ざかる。
まわりに古代の海が満ちてくる。
塩酸の海に、
岩石からミネラルが溶けていく。
大気から二酸化炭素が溶ける。
海は重曹を含むミネラルのスープになり、
その中で自分と自分以外を区別する薄い膜を作り、
生物が誕生する。やがて陸に上がるときは、
ふるさとの海を体内に抱え、人類もそのやり方を引き継いだ。
重曹を使うなら、
掃除ではなく、ケアをしていると考えて。
命も家も地球も。
ライター女史は、今やはっきり私の目を見る。
確信を得て笑う。
私たちを本当に支えているのは、
企業の製品でもオシャレな生活文化でもなく、
自然そのものだ、と真に理解するとき、
人はどんな都会にいても、中空に浮かぶマンション暮らしでも、
地球とひとつになる。
今吐きだしたその息すら、この星と一続きなら、
何が私たちから星を奪えるだろう。
玄関先で、サヨナラを言うあなたの頬に、
赤みがさしている。
本とパソコンを濡れないように抱え、
駅まで走る。
あなたの中で、
これまでになく地球が輝き始めたことを、
小躍りするような自分のダッシュで、
私自身も、ふと知る。
温かい雨の中。