その日、北海道はとても暑く、
到着後の涼やかな空気を期待していた人々は、
飛行機から出るなり、え?暑いぞ、東京より暑い、
と驚きながら、それぞれの目的地に散っていった。
私といえば、迎えに来てくださった方の車で、
急いで札幌の郊外に向かっている。
到着が遅れたことで、会の開始時間の、
ギリギリに滑り込むことになりそうだった。
なぜもっと早い便で飛ばなかったか、
主催の方々に心配をかけている。
移動の計画の甘さを悔いるしかなかった。
車の前には大きなトラック。
荷物をたくさん積んでいるのか、
ゆっくり進む。
早く早く。
そんなことばかり思っていると、
迎えの方が運転しながら話しかけてくださった。
このあたりは米づくりがさかんなところなんですよ。
このごろは北海道のお米、とてもおいしくなりましてね。
もう少しすると一面、田んぼの風景になります。
その言葉でやっと、自分が今、
とてものどかで、美しい景色の中を、
走っていることに気づいた。
広い緑の野を、
一本のまっすぐな道が貫いている。
遠くに丘陵が見える。
名水が湧く小ぶりの山。
目の前のトラックの巻き起こす風にあおられて、
道ばたの草々が大きく揺れる。
そこに白や黄色、赤紫の花が混じって、
日の光のもと、かがやく銀の波になっているのだった。
今、今日、ここに来られてよかったね。
山が、緑野が、笑っている。
しばらくそれらを見つめるうち、
不思議なほど元気がよみがえってきた。
大地にぎゅっと抱きしめてもらったようで、
自然に私もほほえんでいた。
命の洗濯。
生きていることの祝福って、
いたるところにあるんだなあ。