苦しくても楽しくても

少し前の科学記事に、
おもしろいものがあった。

バッタは周りの食糧を食べ尽くすと、
次第に集まり、巨大な群れになる。
群れの個体は、孤立している個体に比べ、
脳の容積が一回り大きくなることがわかったという。

その変化にはセロトニンが関係している、
とのことだった。それでおやっと思ったのだ。

人間にとってセロトニンは、
ストレスに強くなり、前向きで落ち着きのある、
つまり、心身を理想的な安定状態に導く脳内物質だ。

同じ化学物質が、バッタにとっては、
すさまじい餓えと共食いに苦しみながらも、
生き抜くための興奮状態を作り出す。

体の色も、足の太さも、脳の大きさも変わり、
ふだんの緑色のバッタから比べると、
ジキルとハイドと言われるくらい、
黒くいかつく攻撃的なキャラに変身する。

バッタと人間、
それぞれの生き物の体内で、
セロトニンの働く文脈は、
まったく違うように見える。

でもよくよく考えてみると、
その働きはきわめてシンプルで、
ずっと同じなのかもしれない。

環境に適応しようとする自らの変化を、
非常事態に追いつめられて起こすか。
それとも、いつもゲームとして楽しむか。

セロトニンでハッピーになれる人間は、
明らかに後者の生き物と言えるだろう。

苦楽一如。
禅の言葉を思い出すとは思わなかった。
私たちを含め、生き物は、
どこまでこの世のチャレンジを、
乗り越えていくのだろう。