薄曇りの空。
ごつごつした石畳を歩く。
旅の途中にある。
時折、自分の中を強く引っかき起こすような、
そういうひと、もの、ことにぶつかることを、
人生の大きな祝福のひとつと思っている。
が、実際、その経験のただ中にあるときは、
あまりなにも考えていないのかもしれない。
あとで思い出して修飾する。
喜んだり、悲しんだりする。
今はただ、五感の動物だなあと思う。
昨夜は髪を洗った。
シカカイとカシアアウリクラタ、
それに麦飯石のミックスパウダーを、
少々のミネラルウォーターでとろりと溶く。
ペーストの入った器をバスルームに持ち込み、
乾燥してごわごわになっている髪をぬらすと、
自然にふうっとため息が出た。
石けんを使うと、とても泡立ちの悪い硬い水なのに、
とにかく髪の毛を、ミネラルの影響をまったく受けないで、
洗えるってやっぱりいい。
髪に薬草のペーストを行き渡らせ、
マッサージする。歯磨き用のコップに、
少しクエン酸の粉を入れておいたので、
お湯で溶いて髪にかける。
ここからは、しみるので目をつむっている。
くらやみの中で100まで数え、
コックを思いきりひねって、
頭からお湯を浴びる。
友愛。恐怖。思慮。
虐殺。哀悼。支配。
人間はなんでもできる。できてしまう。
立場が変わればどんなことでも正義になる。
水流に助けてもらって髪を指で梳いていくと、
それがさらさらによみがえっているのがわかる。
今日、ぺたりと広がる緑の墓野より、
ひばりが一羽、美しくさえずりながら、
高く、高く舞い上がっていった。
その映像もまたよみがえる。
まぶたの裏に、さらさらと。