質疑応答から

「はい、ではスプレーしてみましょう」

できあがったリフレッシュナーから、
こまかい霧が噴き出されると、
やさしい香りが教室中に広がる。
いつのまにかみな深呼吸している。

衣類にかけたら、
風通しのよいところに、
10~20分つるしておくと乾くこと。
その間に布のしわや型くずれがとれ、
においも消えること。

次に袖を通すときには、
さらっとした肌触りで、
ほんのりハーブが香り立ち、
また気持ちよく着ることができます、と、
説明して実習を終える。

端のほうで聞いてくださっていた、
年配の男性が手を挙げた。
「こういうものが簡単に作れるということを、
 なぜもっとちゃんと広めないのか」

素朴な質問であると同時に、
難しい問いかけだと思った。

回答できないわけではない。
「いっしょうけんめい広めようと努力しています。
 レシピは公開し、本やテレビ、雑誌などで、
 くりかえしお伝えしています。もっとがんばりますね」

でもそれは表面的な受け答えだ。
とりあえずの返事にはなるけれども。

無農薬栽培を手がける農家だというその方は、
いいものだから広まり、みなが採用するとは限らない、
その壁をどう突破するつもりなのか、と尋ねている。
ご自身もいつも考えている問題なのだろう。

日焼けしたごつごつの手が鉛筆を握り、
ぎこちなく動いたり、止まったりして、
黒板のレシピを書き取っている。
ときおり眼鏡を上げ下げして。

そう。
その気になるのはある種の奇跡だ。
知っていても体が動かないことはたくさんある。
いつのまにか、ついにやってみようと思える、
その心の変化をどうとらえればいいだろう。

はやりとか、マーケティングとか、
外から働きかける力もあるけれど、
決定的なものではない。

私たちの心の内にあって、
ぺらぺらの表層ではわからない、
深く古い、本当の主に働きかけること。

あまりちゃんとお返事できなかったけれど、
もっといっしょうけんめい考えて、
試み続けますね、おじさま。