おひなさま祭りの町を歩いた。
古い雛人形はなんとなく、
今の見慣れた日本人とは違う顔つきで、
口角をわずかに上げて、
つるっとほほえんでいる。
かたわらのオルゴールが、
短調の童謡を奏でていた。
ゆっくり。もうすぐ止まりそう。
お祭りなのにものうげで、
子どもなのに酒も出て、
触りたいけど触ってはいけない、
かれんなおひなさま。
かたしろだったのだから。
ふと、声が聞こえた気がした。
この身にケカレ写し取り、
流されたり、吊られたり、燃されたり。
きれいな飾り物になったのは、
それほど昔のことではないもの。
そうだったね。
今は身代わりを引き受けよと、
誰もいわない。
さまざまな家に置かれていた、
しあわせの象徴を、
3月の春の光が包んでいる。
写真を撮ると、
赤のハレーションが起きて、
そばの人の顔もほのかに染まった。