星降る平原に

立てなかった。
結果的に、まる一昼夜、
起きることも歩くこともできなかった。
白酒の洗礼はまったく強烈だった。

すばらしいモンゴル音楽とご馳走のパーティーで、
あとは草の上に寝そべって天の川を見上げたよ、
と、あとで聞いたけれども、残念ながらきっと、
行ってもぐったり伏せっているだけだっただろう。

ホテルの人が部屋に運んでくれた、
大きなボウルにたっぷりのトマトと卵のスープを、
少しずつ、半日かけて飲んだ。
冷めて塩味が少しきつく感じられても、
それがかえって気持ちよかった。

午後やっと、
固形のものを口にする気になり、
豆腐を食べた。
日本の豆腐よりも少し固く、
大豆のにおいがする。
かけらにつけた醤油のうまみが、
体中にしみわたってほっとした。

新鮮な空気が吸いたくなり、
ホテルの窓を開けると、
二重窓の外は街の人々のにぎわいと、
ときどき車のエンジン音、そして警笛の音。

ほこりっぽいかな、と思ったけれど、
夕方のまだ少しあたたかい空気が流れ込み、
それには何のにおいもなかった。

 なにしてるの。

自治区は全域ワイヤード。
もはや草原のまっただ中でも、
携帯メールはサクサク届く。

 なにも。二日酔い中。

 モンゴルで?水飲めば。

 うん、そうする。

短い会話のあと、携帯は沈黙した。
ばさりと横になり、パソコンに向かう。
今夜の宴にはきっと大きな羊も出るだろう。

昨日、ゲルで私たちを迎えてくれたお父さんは、
かつては羊の脂とすい臓を混ぜてこね、
せっけんを作ったと言っていた。
丸い、上等なせっけんを。

そのことをメモしておかなくてはと、
今はもうなくなりつつある慣習について、
日本からやってきた酔っぱらいは、
よれよれしながらキーを打っている。
ちょっぴり指が震えている気がする。