モロヘイヤ

8月はほとんど日本にいることがなかった。
ようやく帰ってきて、少しずつ緊張をほどいている。

中でも強く心に残ったのは、
新熱帯に息づく様々な緑と生物の姿。
湿度100%のレインフォレストには、
あらゆるところに生きものの濃厚な影があった。
危険なものも、美しいものも、名もなきものも。
そして標高1500メートルのクラウドフォレストには、
猛スピードで飛来し、また去っていく、
ひとりぼっちの鳥と虫が、たくさんいた。

なんという強さだろう。
なんと生きものは多様で奇妙なのだろう。
衝撃はギュウと胸を押し潰し、思考の殻を砕いていく。

日本に帰って最初の日、
浅い眠りの中で森の夢を見た。
目覚めて泣きたくなり、
夜明けの畑に出た。

長い留守の間、
きままに生えた雑草を、
ザックザックと刈り取る。

青い草のにおい。
たわんで、しなって、ぷちっと切れる、
生きているものの手応え。

草の根元にバッタの幼生を見つけ、ほほえんだ。
猛々しい熱帯のバッタとくらべ、
色といい、大きさといい、動き方といい、
温帯の生きものは、なんてやさしく、はかないのだろう。
周りを飛ぶ蚊ですらふわんふわんと所在なげで、
すぐに追い払ってしまえる。

よく育ったモロヘイヤを摘んで、
トロトロの朝ご飯にした。
たちどころに意識がクリアになり、
新鮮な緑のスタミナを実感。

その後、また浅く眠った。
熱帯の緑が再び夢の映像を縁取り、
まだそれに包まれていられるよう、
意識を失う瞬間も祈っていたように思う。