2007年7月17日(火)プラスティックブレード

たたらで鉄を作り、
刃物にすることに興味を持つくらいだから、
もしかしたらフェチかもしれないと、
うすうす自覚はしていたものの。

空港で、小さな万能ナイフを取り上げられた。
これまで数々のトラブルの種となってきた。
しかし持たずに旅することなど決してなかった、
分身のような銀のヴィクトリノックス。

ダスターに落ちる音に、
耳を塞ぎたくなった。
オワリだ。
世界のオワリ。

もとはといえば、うっかり習慣で、
手荷物にしてしまった自分が悪いのだが。

ふらふらと空港をさまよい、
これからどうやって生きていこう、とうろたえる。

大げさではない。
これまで何度も危急を救われてきた。
中国の奥地で、通りかかった行商人から小さなリンゴを買い、
それで剥いた。体調を崩した友が、
やっと口にし、笑顔を見せてくれたこと。

日本のように親切な切り口がなく、
いくらひねっても開けられない袋にスッと切り目を入れ、
必要な中身を取り出せたことも、何度となくあった。

針と糸さえあれば、布は繕えるというけれど、
本当はそうではない。糸を切る「刃物」がなければ、
裁縫は完成しない。急な纏りやかけはぎにも、
それはいつもそばにいてくれて、頼りがいがあった。

大事なお守りをなくした気分で、
シートに沈み込んでいたら、
機内食の時間となった。

ナプキンにくるまれたカトラリーを出す。
フォーク、スプーン、そしてナイフ。
そこでおやと気づく。
ナイフだけは透明なヘロヘロのプラスティックなのだ。
そこまで神経質にならなくてもいいだろうに!

さきほどの空港警備員の有無をいわさぬ態度に、
少しは納得がいったけれど、
ねえ、かつて飛行機は、食事の時間ともなれば、
機内のオーブンでローストビーフが焼かれ、
刃渡り30センチはあろうという大きなナイフで、
ワゴンから好きなだけ肉を切り分けてくれたそうですよ。

それを牧歌的と懐かしむだけでしょうか。
なにがそこまで人々から自由を奪い、
がんじがらめにするのでしょうか。

これでもう、空港の荷物チェックで、
警備員とケンカすることもなくなると思ういっぽうで、
どうやったら刃物を持って旅する自由を取り戻せるのか、
およそロクでもないアイデアが、あれこれ頭の中を駆けめぐる。

そうこうするうち、轟々と大気を切る翼に導かれ、
刻一刻と、この身は地上に近づきつつある。