2007年7月15日(日)毛深い椅子

久しぶりに会った友達、
初めて知り合った人々が入り交じり、
皆で美味しいものを食べようということで、
街一番の高級店に行くかどうか議論する。

行きたい派は、贅沢なものばかり注文せず、
今おいしい食材を店の人に聞いて、
地元の料理を楽しめば大丈夫だという。

行かないほうがいいんじゃない派は、
そのハナシに懐疑的。人数が人数だけに、
もっと安くておいしいところを探そうという。

30分ほど、もめたり電話をしてみたり。
結局、超がつくほど高級ではないが、
気取らない家庭料理の店としてはかなり有名、
というところに落ち着き、ぞろぞろ移動する。

街中のショッピングセンターの2階。
店内の壁に、数枚の写真が貼ってある。
仲良く肩を組む、父と息子とおぼしき料理人の姿。
先代の父は、まさに本日、行くかどうかを取りざたした、
超高級レストランの料理人だった。

政財界の大物や金持ちのために腕をふるい、定年で辞めた。
店を出してやろうという投資家たちの誘いを全部断り、
退職金もなにもかも、有り金はたいて自分の店を開いた。
店は次第に評判を呼び、家族連れが押し寄せるようになった。
以前の賓客たちも道端にメルセデスやロールスロイスを待たせ、
家族連れの隣のテーブルで、変わらぬ腕前に舌鼓を打った。

そんなこんなであっというまに手狭になった店は、
となりの衣料品店がたたまれるとき、
そことつなげて少し拡張されたけれど、
相変わらずショッピングセンターの2階で、
賓客ルームも駐車場もなく、そしていつも満席だ。

あちらのテーブルではティアラをつけた少女が、
家族一同になにかのお祝いをしてもらっている。
こちらのテーブルでは、おじいさんのためのお祝い料理。
しわしわの手が木槌を持ち、なにかの蒸し焼きだろう、
一番外の塩釜を割ろうとしている。コン、と音がして、
あとはちゃんと取り分けるために一度皿が下げられる。
うーん、儀式っぽくていいね。

私たちもをたくさん食べ、たくさん笑った。
おいしいもの、めずらしいもの、なつかしいもの。

さて、そしてお会計。
トータルを見た人間がうなっている。
どうしたの? 高いの? 安いの?

高い。けれども、安い。
のぞき込んだ人間がコメントする。
最初の予算に毛が生えたくらい。

これにはみな笑った。
まあ、あれだけ飲んで食べたのだ、
思ったより少し高かったけど、
超高級レストランで遠慮しながら食べるより、
このほうがよかったじゃないか。

そうだね、“毛”程度だからね、
よしとしましょうか、と、
2軒目のバーに流れると、
そこの椅子がなぜかちくちくする。

よく見ると、座面に毛が生えているのだ。
ビロードではなく、もっと粗い密度の、やわらかい毛。
おかげで「○○に毛」の構文で、
いろんなものに毛を生やしてはその意味を考える、
奇妙な二次会ゲームが誕生した。

というわけで本日のキャッチコピー。

be hairy,
be bold,
be audacious!