ふたたび、京都にいる。
この前訪ねたときは肌寒かったが、
今日はいい陽気だ。山辺の桜も見頃。
苔の緑も美しく萌え出し、
あたり一面、
春がみずみずしく息づいていた。
夕方、仕事を終え、新幹線に乗るべく南に下る。
この季節、古都は観光で混雑の極み。
宿も取れないほどだが、せめてつかの間の風情、
賀茂川づたいに行ってみようということになった。
桜にはもうギリギリか、少し遅いかな、と運転手さん。
ええ、でも菜の花と水鳥たちも見えるから。
葉桜になりかけの、街中のソメイヨシノ。
コンクリートの飛び石を、
向こう岸から渡ってくる人がいる。
キャッチボールに興じる人。
トランペットを吹く人。
ジョギングをする人。
ぼうっと川面を眺める人。
何が一番思い出に残っているの。
不意の質問に、しばらく答えを探す。
意外にこの賀茂川と三方の山並みかもしれません。
あと、その頃食べたものの味とか。
建物じゃないんだね。
ええ、多くは取り壊されて新しくなっていますし。
懐かしいのは自然物ばかりのような気がします。
それは、私が居ようと去ろうと関係なく、
ずっと続く、この都への無言の贈り物だ。
折しも来日中の中国の首相は、
本日、北嵯峨の農家を訪れたとか。
直接見聞きし、味わった何かが、
人の奥底で発酵し、滋養をとなっていく。
その方にも、京の風景や手触り、味わいが、
じんわり染みこむといいね。ゆっくりと、でいいし、
それ以外ないのだろうから。
そういえば、と、シジミ蝶の話を教えてもらった。
温暖化は確実に進んでいる。
東京より桜が遅いからといって、
この都も例外ではない。