検査を信じず
汝を信じず
前工程を信じず
とある工場で目にした警句。
長いラインの始まりに掲げてあった。
人と機械が一緒に働くときは、
だいたいの場合、機械の不良よりも、
人の思いこみがエラーを生む。
無人工場を見学したときは、
こういう光景はなかった。
塵芥ゼロの超清浄空間の中、
とほうもなく大きな機械が動いている。
その動作は能に似て、動いたり止まったりを、
最小のエネルギーと時間で舞うようにこなす。
それを、無音のガラス窓の向こう、
防塵服の検査人が見ている。
ここでも、エラーを生むのは人であって、
それも人というのはこの大きさの動物ですとか、
息をしますとか、身動きして埃を落としますとか、
どれも生き物である以上、仕方ないじゃん的なことで、
生産が駄目になってしまう。
汝を信じず、のフレーズがこだまする。
そもそも自分は間違いを持ち込むヤツなんだ、と、
覚悟しましょうと聞こえる。
生き物であるということは、
そういうことなのだろう。
そのことを、愛しくも、悲しくも思う。