バレンタインデイが近づいたチョコレートショップは、
なんとなく華やいだ気配。大人の雰囲気の店だから、
いかにものディスプレイは全然ないにもかかわらず。
白くあたたかな冬の陽がビルの陰に入っていくまで、
本日、初顔合わせの方とざっくばらんな話をする。
一歩一歩進み続けることが、
三十年後の常識をちょこっとばかり、
変えているかもしれませんもの。
夢は大きく、現は小さく、
でもとにかくやってみましょう。
それから笑顔でではまた、さよならと言い、
ゆっくり街の雑踏に混ざって地下鉄に乗る。
三十年後ならまだ生きてるかな。
どうなったか自分の目で見られるかな。
なにかの大きな流れに乗り、
約束を交わした日は、
いつもそんなことを考える。
三十年など甚だ近視眼的だと思うけれど、
百年、千年の計をもって身を処してきた人々の、
ほんのしっぽをマネしている。
自分の死んで存在しない世界が、
思考のスタンダードであるような、
醒めたエトスを持ちながら、
いっぽうで生きて動く自分の体を、
燃やし尽くすパトスを保つ。
このフラットな世界でこれから力するのは、
たぶん、そのような両刀遣いなのだろう。
そう思ったので私の手には、
バレンタインデイを苦々しく思いながら、
季節を感じ尽くさんがための極上チョコレートが、
ちゃっかり乗っている、んだよね。