いつの頃だったか
母が、よくお参りする神社の近くで、
植木屋さんから買ってきた小さな苗は、
いまや大きなレモンの木になって、
毎年たくさんの恵みをくれる。
酢の物をしようといっては摘み、
魚を焼いたからといっては摘み、
風邪をひいたらはちみつレモン、
髪の毛にも香り高いレモンのリンス。
使う前に薄く皮をむき、ざるに干す。
これが大事。
絞ったあとでは皮がふにゃふにゃして、
たいそうむきにくいから。
約一日でクルンとカールし、
レモンの皮のドライハーブのできあがり。
庭に植えただけで施肥も防除もせず、
薬品とまったく縁がないから、
安心してフル活用できる。
ビネガーにつけて10日ほど置くと、
レモンビネガーのできあがり。
同じひとつのビンから、
サラダのドレッシングに使ったり、
キッチンのふき掃除に使ったり。
ミルで粉にして、
デザートのトッピングに、
塩と混ぜてレモン塩に。
遠い昔、大航海時代に多くの犠牲者を出した、
壊血病の切り札となった奇跡の果実。
水にレモンを浮かべた大樽を備えるようになってから、
水夫たちは、大洋を渡る長い航海をしても、
ビタミンCの欠乏で死なずにすむようになった。
この冬も、朝のレモンジュースの前に、
1個分のレモンピールを作り、
小さなざるに干して出かける。
翌朝、皮を小さなリネンの袋に移す。
乾いた皮たちは、キャラキャラと笑い声を立てて、
新しい仲間を迎える。
そして私には、一日分の香りのごほうび。
寒い冬の朝も、
いっぺんに元気が出ます。