夜遅い道。
知ってる犬が歩いている。
綱をひいているのは知らない人。
あれ、ご主人さまと一緒じゃないの?
他にも押し合いへし合いしながら、
中型、小型犬が5、6匹。
器用に左右の手を始終動かして、
引き綱がからまらないよう、
手慣れた様子でお散歩させている。
ははあ、この方が、
いわゆる散歩屋さんか。
忙しい飼い主に代わり、
毎晩外に連れ出してくれる。
見事なニッチ商売があったものだ。
私に気がついたか、
トモダチ犬がしっぽをふる。
他の犬たちもいっせいにこっちを向く。
やあ、ってなでてあげようかと思ったけど、
集団行動の邪魔になるといけないので、
遠慮するね。みんな仲良くね。
あとで気づく。
そういえば彼、
今日は顔が笑ってなかったなあ。
他の犬たちもそうだった。
みんな心底からは楽しめてないのかな。
そうだよね。
あなたたちがしたいのは、
うんちやおしっこじゃないもの。(したいけど、それとお散歩は別)
健康のための運動でもない。(体は動かすけど、それとお散歩は別)
ご主人と同じ風をかいで、同じ景色を見て、
明日は雨だな、とか、今夜はとても暖かいな、とか、
同じ気持ちをシェアするのが散歩なんだ。
言葉の代わりに体験を分かち合う。
いっせいに私を見た、
黒いガラス玉のようなたくさんの目が、
ボクたちの中にある、
あなたたちと同じ心に気づいて、と、
言っているような気がした。
真夜中は黙って歩く。
ワシワシ歩く。
なんだかちょっと切ない。