11月8日(水)散歩屋

夜遅い道。
知ってる犬が歩いている。

綱をひいているのは知らない人。
あれ、ご主人さまと一緒じゃないの?

他にも押し合いへし合いしながら、
中型、小型犬が5、6匹。
器用に左右の手を始終動かして、
引き綱がからまらないよう、
手慣れた様子でお散歩させている。

ははあ、この方が、
いわゆる散歩屋さんか。
忙しい飼い主に代わり、
毎晩外に連れ出してくれる。
見事なニッチ商売があったものだ。

私に気がついたか、
トモダチ犬がしっぽをふる。
他の犬たちもいっせいにこっちを向く。

やあ、ってなでてあげようかと思ったけど、
集団行動の邪魔になるといけないので、
遠慮するね。みんな仲良くね。

あとで気づく。
そういえば彼、
今日は顔が笑ってなかったなあ。
他の犬たちもそうだった。
みんな心底からは楽しめてないのかな。

そうだよね。
あなたたちがしたいのは、
うんちやおしっこじゃないもの。(したいけど、それとお散歩は別)
健康のための運動でもない。(体は動かすけど、それとお散歩は別)

ご主人と同じ風をかいで、同じ景色を見て、
明日は雨だな、とか、今夜はとても暖かいな、とか、
同じ気持ちをシェアするのが散歩なんだ。
言葉の代わりに体験を分かち合う。

いっせいに私を見た、
黒いガラス玉のようなたくさんの目が、
ボクたちの中にある、
あなたたちと同じ心に気づいて、と、
言っているような気がした。

真夜中は黙って歩く。
ワシワシ歩く。
なんだかちょっと切ない。