今でいうところのIT関係、の大先輩から、
古い時代のデータ保存の方法を聞いた。
鑽孔(さんこう)テープという。
紙の細いテープに孔を開け、そのパターンで情報を示す。
点字のようにタイピングするものだったという。
瞬間、記憶がよみがえる。
あれのことに違いないと思う。
私、見たことがあります、というと皆のけぞる。
この業界長いが、さすがに見たことない、と。
えっとあの、電気工学が専門の叔父が若い頃、
なにかの拍子に持ち帰ったのを、
幼心に覚えているのです。
今思えば廃棄されたものだったかもしれない。
するするとほどいて遊んだ。
紙は簡単に切れ、
穴ぼこの手触りが面白かった。
スライドさせて、
孔から向こうの景色を覗いた。
色鉛筆やマジックで、
長い長い落書きもした。
それがなにかの「言葉」だということは、
そのときからわかっていた。
コンピュータという単語を聞いただけで、
周りの大人達が魔法にかかったように、
希望に満ちた目をするのを知っていた。
解読することはできなかったけれど、
点の織りなす規則性のある模様を、
飽きずに眺めたりもした。
紙は、特殊な作りのもので、
今はもうないだろうといわれる。
普通の紙では打ち抜く針がすぐにダメになるので、
ほどよく油をしみ込ませてあったそうだ。
オペレータの女性達は、
タイプマシンが追いつかないくらい、
それはそれは素早く打ったという。
あまりに面白かったので、
鑽孔じゃなかった参考ページをリンクする。
いろんな技術、製品、それに関わる人がいる。
そのたび、無数の工夫が生まれては消える。
でも鑽孔テープ上の信号は、
現在のアスキーテキスト誕生の直接事由であり、
私たちは確実に前の時代の螺旋の上に生かされている。
ほら、この文章も。ね。
かつて覗いた紙の穴の向こう、
本当はこんな未来が見えたのかなあ。