ひどく肩が凝っている人に頼まれて、
手を当てる。
当ててもらっているだけで、
十分気持ちいいのだそうだ。
揉まなくていいの? 叩かなくていいの?
と訊ねると、そのままでいいと言われ、
しばし肩に手を当てたまま沈黙する。
変な光景だ。
後ろから肩に手を当て、
何も言わずにじっとしている。
手は温かいから、
血行がよくなるのかな。
などと考えていると、
かすかに手の平に冷たい風が吹いてきた。
この間お腹を壊したときと同じだ。
もっと温かくしないと、ここ冷えてる。
マッサージオイルにサイプレスを入れ、
肩に塗って軽くリンパドレナージュする。
少しすると、肩がポカポカ温かくなってきたという。
植物の力はホント、偉大。
再び、風穴に手を当てる。
ざわざわするものが手を上がってくる。
電気みたい。
それもあまり気持ちのよくない…。
肘まで来て、止まった。
勢いよく手を振って、
ざわざわを払う。
水滴を払うように、
なにかが腕から振り飛ばされていく。
そのあと、ずっと考えている。
振り落とされたざわざわは、
どこに行くのだろう。
新しい別の何かに生まれ変わるべく、
静かにどこかで朽ち始めているかしら。
それともまだなにかに貼り付いて、
たとえば次の誰かを、家の中の何かを、
ざわざわさせているかしら。
ざわざわを、
この世にアルカリのあるごとく、
夢と現のあわいであっけなく中和分解するものは、
ないものかしら。