子供のように・・・・

まるっきり、駄々っ子のように、聞き分けのない時の母に手こずる・・・。
半身が動かないから、何もかもが気に入らない。
はらはら泣いたり、私を睨み付けたり、感情にまるで落ち着きがない。
何かを取ってと訴えるのだけど、指差すものはことごとく違う・・・・。

もう、10個以上を指差したけど、違うと言う・・・。
そして、激しく怒って、布団をかぶってしまった・・・。

ああ、もう、言葉がなくなるってこんなにも不便だったっけ・・・?

それにしてもすごい・・・・。焦点の合わない目で、ぼやーんとただ寝てふわふわと空中を見つめていた母が、意思表示をし、好き嫌いを訴える・・・・。

お人形さんから、人間にちゃんと戻っていっている・・・。

しばらくすると、布団をめくって、ぽっかりと顔を出した。
そして、また何かを「あ・・・」「お・・・・」「◎×▼・・・・・」と、訳のわからないことを言い始める・・・。
そして、手を差し上げる・・・。

どうやら、上の棚に載ってるものが欲しいようなのだ。
また、「これ?」「それともこっち?」と、タオルやそんなものをひとつずつ、母に見せる・・・。

明るいブラウンの大きいバスタオルを持ったときに、目がきらっと輝いて、大きくうなづいた。
それを母に差し出すと、うれしそうに、布団を足元まで蹴り下げ、バスタオルを広げ始める・・・。

そうか、布団は熱かったのだ、だから、おなかのところだけ、バスタオルを乗せて眠りたい、そう言うことなのだ。
やっと分かってもらって、うれしそうな母と、ほっとした私。
すかさず、「お母さん、こういうときは、それじゃだめだよ!タオルとって、って言わなきゃ!」

その意味が分かったのか一緒に発音を始める・・・。
「たおる」
「た・・・・」「お・・・」「る・・・・」
「たおる」
「た・・」「お・・」「る・・」
「たおる」
「た・」「お・」「る・」

ほら、言えた。
その単語を、何とか言えたことがうれしかったようで、タオルをじっと見つめ、何度も触る・・・。

忘れたって、そう、こうやって思い出せばいい。
母にとって大切な言葉をひとつづつ・・・・。