平成18年5月11日
この日をメモっておこう。
なぜなら、母が私の名前を呼んだから。
ちゃんと分かって、自分の名前も言い、私も呼んだから。
なんとすごいことなのか・・・。
GW中は、言語の先生にももしかしたらだめかもしれない・・・・と言われていた母・・・。
発語さえできなかった母が、私の名前を呼んだのだ。
今日は、午後、病院から母が急変したとの連絡を受けて、病院へ急ぎ向かう。もしかしたらもしかする・・・・・。
恐怖と覚悟・・・・。
所在無い不安やそんなものが一気に押し寄せて、車のハンドルを握る手も震えた・・・・。
過呼吸になって、発作のようなものをおこしたと言う説明があった。
レントゲンやそのほかの検査は速やかに行われ、異常なしとの結果に胸をなでおろす・・・。
そんなこんなでばたばたしているうちに、夕食の時間。
食べ始めた母を見ながら、担当の看護士さんや、先生とも「さっきのはなんだったのかしら」と話していた・・。
ほとんど食べ終えた母が機嫌がよさそうだったので
「お母さん、歌歌ったんだってね、聞きたかったなあ」と話しかけると、実に恥ずかしそうにうつむく・・・。
今までとは違うリアクションに
「お母さんの名前、思い出した?」
すると口をゆっくり開けて、なにかもごもご言おうとしている。
名前の最初の言葉を私が口で作ると、母も同じように作った。
そして、ゆっくり、自分の名前を発音した。
まさか???分かるの????
私が自分を指差して「私、だれか分かる?」
すると、またゆっくり私の名前を発音した。
そこにいたスタッフ4名くらいがすぐに来てくれて、もう一度母に聞く・・・。
「ね、○○さん、名前、言えるの?もう一度言ってみて」
すると、母は、さっきよりずっとはっきりと自分の名前を喋った。
わあーと、周囲から歓声が起こった、拍手も・・・・。
母はますます照れた顔をして、さっきよりもうつむいてしまった・・・・。
こちらの言っていること、自分という存在も、だんだんと思い出してきたのだ・・・。何とすごいことか。
昨日のこの時間には、まだ「あ」と「う」が精一杯だったというのに・・・。
私が帰りがけに「この調子で、リハビリがんばってね」と言ったら
「ちょっとずつ・・・」と、言葉を付け足した・・・・。
またまたスタッフ達が「わああ・・・」と歓声を上げる。
一人の言語助手の人がすかさずメモ帳に母の名前を大きく漢字とひらがなで並べて書いてくれて、母に手渡す。
「ほら、これがあなたの名前、ね、○○○○」
母はその紙を持って何度も見つめていた。
「何か言いたいことがあって、それで過呼吸みたいになってしまったのかな・・・・?もどかしかったのかもしれないね、分かってるのに話せないことや、動きたいのに動けないことが・・・」
そのとおりだと思った。
明るい光が見えてきた。
今日は地獄から天国、そんな気分だった。