介護生活4日目

驚く回復力だった。
もちろん、100%元に戻るなんていうような、奇跡は起こらないけれど・・・・。
残された機能を、ここまで回復できることに驚く。

リハビリ室で、マッサージを受けながら、座る練習、歩く練習、車椅子に乗る練習・・・・。
そんなことをしているのだそうだ。
私は夕方しかここに来れないけれど、担当の看護士さんや理学療法士さんにお話を聞くことが出来る。

今日は、母の一番上のお兄さん(私にとっては叔父さん)と奥さん(こっちは叔母さんね・・・)が来ていた。
なんと、リハビリ室で、いろいろやっている母を見たと言う・・・。
どこまで理解してるのか、してないのか・・・?
それは、私には分からないけれど、がんばっている母がいる・・・。辛いはずだ・・・動かない手足を引きずるのは・・・動くほうで2つ分支えるのは・・・・でも、母は、それをすることを拒まない・・・。

私はすぐ、ちょっと痛かったりしんどかったりするとサボる・・・。
もし、自分がこうなった時、こんなに耐えられるか自信がない・・・。
「嫌だ~」って言って、拒むんじゃないかな・・・私なら・・・・。

私のこと、ずっと分からないでもいいから、お母さんがもっともっと楽しく人生を生きるために、少しでも色々な感覚を取り戻して欲しい。
お母さんが、もし、私を思い出さなくても大丈夫。
私がちゃんと覚えているから。
子供達も覚えているから・・・お母さんが忘れた分、いつでも話してあげるからね。

色々なリハビリをしてもらっているおかげで、動きが悪いほうの手も、暖かくて、決して細くなっていない。
触覚は残っているので、触ると、少しは分かるみたいだ。

こんなにお母さんと長い間手をつないだのなんて何年ぶりだろうね。
ぎゅっと握るとぎゅっと握り返してくる。
小さな頃、こうしてよく手をつないだね。

お母さんが田んぼや畑から帰ってくるとき、小学校の入学式の時・・・・。
思い出すのは、どれも、私がうんと子供だった時ばかりだね。
今は私の手で、母の手をすっぽりくるんでしまえるほどだ。

明日からは、本格リハビリが始まるから、軽いシューズと、もっと自分で食事をさせるので、ベッドを汚すかもしれないから防水シートも買って来て欲しいと病院からの要請があった。
モチロン、この後すぐに買いに行きます。

お母さんの手を離して、「また明日ね!」と大きな声で耳元で話す。
決して私の方は見ないけど、この手をまた明日、握りにくるからね。
ベッドに移された母は、もう、うとうとしかかっていた・・・。
リハビリで疲れたんだね・・・・看護士さんがそう言う・・。
多分そうだね、・・・母の寝顔を見ながら叔父さんも私も帰路についた。

「大変やろうけど、頼むな・・・・」
おじさんが別れ際にぽつんとそう言った・・・。

私には母でも、この人にとっては妹なのだ。
思いは複雑なのかもしれない。
私とは違った意味で、悲しみを受け止めている人なのだ。
どちらが辛いと言うのでなく、そんなのは比べるものではないけれど・・・この人は私より長い間母を見て、母を知っている人なのだ。

どうすることも出来ない悲しさを、もう、私より長い人生の中で、嫌と言うほど知っている人なのだ。
経験は、人に分けられない。
私もまた、自分が経験することでしか、自分の経験値は増やせない。

泣くのは時として、気分を楽にしてくれる。
大人になったら、人前では泣けないから、この人は、私の前でも決して泣かない・・・。
でも、その胸のうちの悲しさは、きっと私以上に複雑で深いのだと思う。

私の母だもの、出来うる限りのことはするよ。
モチロン、福祉の力も借りて、ちゃんとみんなが立ってられるように。
「お母さんの介護」という名目だけで誰一人も夢をあきらめたりしないで済む様にちゃんと考えるからね。