あまり安定しない雲行きだとは思っていたけれど、
街に出かけてしばらくすると、どしゃ降りになった。
カフェに逃げ込み、小やみになるとまた歩く。
それを繰り返すうち、いつか衣服全体が湿り、
少し寒く感じる。
それでも、無事に墓に参ることはできた。
共同墓地の入り口でバケツかじょうろを探していたら、
おばあさんが何か言いながら、
自分の持っていたじょうろを渡してくれる。
どうやら、水はあちこちに水栓があるから勝手に汲むのよ、
と教えてくれているらしい。ありがとうございます。
鉢植えの花を入れ替えに来た家族たち、
一人、石碑に話しかける年配の人。
世界のどこでも行われているであろう、
死者の眠る場所の、静かな光景だった。
いつまでも交互に晴れと雨がやってくる。
今日で靴はダメになったかもしれない、と覚悟する。
晴れ間に歩いているとしても、
これほど水たまりに足を突っ込み、ぬれてしまっては、
革が固くなってしまうだろう。
これまで道でないところをさんざん歩き回って、
ストラップも切れそうになっているし、
帰ったらメーカーに修理に出してみよう。
うまく甦るといいけどなあ……。
空港まで送っていただく約束の車が来たという。
カフェ・エクスプレスを飲み干し、街を後にする。
持ち帰るもの。
微熱。壊れた靴。日焼け。カルバドス。花の記憶。
置いて帰るもの。
墓前のチューリップ。また来る約束。板ワカメ。
けっこういいディール。かな。