林芙美子が『放浪記』で手に入れた金で、
パリを訪れて七十五年経つ。
帰りたい、早く帰りたい、
と、繰り返す日記。
本当に書きたかったことは、
行間にあるとしても。
丁寧になでつけた髪とストラップシューズ。
小さな体を椅子に鎮め、ややうつむき加減。
憧れの巴里は、他のどの場所とも同じように、
さまざまな人間模様に彩られ、
苦しく切ない思いを焼き付ける場所だったか。
買い物しておかないと、
明日はみんなお店閉まりますよ。
忠告を受けて、さて何か買おうか思案する。
でも、あまり欲しいものはないのだった。
ブランドものならいつでも日本で手に入る。
できるなら、
風景を切り取って帰れるといいなあ。
なにげない小さな景色が本当に美しい。
ふと気づくと、
可憐な草の花をたくさん見た旅だった。
芙美子サンの目にも、映っていたかしら。