プロバンスを北へ。
赤い土と奇岩、そしてポピーの揺れる強い光の中、
ローマ人の作った巨大な水道橋を眺める。
フランスでも、
思った以上に田舎は観光化している。
なにしろ、こんなところに、と思う先まで、
大型バスがグイグイ乗り付け、
新しく建てられた観光センターに団体客がゾロゾロ。
何人もが閉じこめられ苦しんだ城も、
大勢の住民が殺された砦も、
観光の旗印の前ではひどくフラットな表情だ。
橋は立ち入り禁止の世界遺産となり、
お金を払って眺めるだけの対象に変わっている。
以前は誰も管理者がおらず、
勝手にそれを渡ることすらできた。
誰もいない古代の橋を歩く。
落ちたら死ぬだろうが、
ステキな体験だったろうなあと思う。
危ない橋を渡るも渡らぬも、
自由に決断できれば冒険譚になるだろう。
でも、観光旅行はガラス越しの見学コースに似ている。
いくら旅をしても、原義である困難(trouble)に出合うことは、
もはやまれなことかもしれない。
だからというわけではありませんが、
あの、えと、お土産屋さんで携帯ストラップを探すの、
そろそろ止めませんか。
もしプロバンスのアイコンが、
そこまでフィーチャーされていても、
うれしいような、悲しいような。
行く先々に、フランス語、英語、
そして日本語の解説パンフレットがあるだけで、
十分に分厚いガラスの壁を感じまする。
ストラップは、
永遠に中に入れぬ拘束帯かもしれませんよ。