4月5日(水)バイアスを解くバイアス

近所の仕立て屋さんに、
うさとで買ったヘンプのシャツを持っていった。
少しだけ身頃をしぼりたかったのと、
他にも夏物のリフォームを頼みたかったので。

女主人自ら、いつも流行のラインをよく理解し、
腕のいいお針子さんが揃っているこの店は、
「もし引っ越してこのお店が遠くなっても、
 洋服の相談のためにわざわざやってくるだろう」と、
通う人々皆が口にする頼もしいお店。
シーズンごとに殺到する大量のお直しを見事にさばき、
大好きな洋服を、時代の息吹きに合わせて、
生き生きと甦らせ続けるお店でもある。

シャツを一目見た女主人は言った。
「あら、いいシャツね。襟がちょっと変わっててとてもかっこいい。
 ちょうどその形に仕立てると合うだろうなと思う麻があるの、
 型紙取らせてもらっていい?」

しばしうさとの服談義。
「麻の服はむずかしいのよ。動くうちにシワになって丈が短く見える。
 でもこのシャツは……ああ、ホラ、腕だけバイアスになってる。
 これなら伸縮性があるので、腕を動かしても楽でしょう?」

やはり服をよく知る人の見る目は違った。
またもや目からウロコだ。
このブランドのデザイナーさんは、
タイ・イサーンの女性たちに、
パーツのバイアス取りまで教えている。
なんと細やかな仕事だろう。

始めから民芸品の域を超え、遠くを見通している服。
その服を身にまとうであろう、別の国で買い求める人を、
ひたと見据えている。

ここまでやればいいんだ、やれるんだ、
どこで服作りをしようと、それを仕立てる精神と技術に、
着る人のことを忘れる距離はないということだ。

「バイアス」って布を斜めに使うことから転じて、
「片寄り」とか「偏見」とかいう意味があるけど、
いみじくもアジアの服に対するバイアスを解く、
鮮やかなバイアス使いを見た。