3月29日(水)ベンツ彗星

駅までの道の途中、
ぶうん、とベンツがエンジン音を立てて通り過ぎ、
私の行く手を阻むようにして止まった。
まったくもう、と思いながら、とりあえずよけて歩こうとすると、
運転席のドアがガバッと開き、人が出てきて、
「こんにちは! お久しぶりです」と挨拶された。

そういえば、顔に見覚えがある。
数年前に近くの不動産屋さんにいた人だ。
派手な車と洋服に、相変わらず商売しているの、と訊ねると、
ほんの数十秒の間に、今は別会社の社長をしていること、
衣食住なんでも手がけるイベント屋であること、
去年離婚したこと、兄がいるが事業に失敗していて、
自分が実家を継ぐことになったこと、
土地も家も車も何でもあるけど、
なんだかぼろぼろで生きてます、と話した。

おやおや。
奇妙な再会の仕方もあるものだ。
えー、けっこう大変だねー、と言いながら、
最近の名刺をいただき、
心の中で彼を「ベンツ彗星」と名付ける。

ベンツ彗星君は、星々の運行にどのような力を及ぼすか、
いまのところ未知数だけれど、
私も所属するこの宇宙に飛び込んでらしたことに、
まったく異存はなく。

春は、いろんなものがひょいと飛び出し、
重力圏を替えて動き出す時期のようです。